研究課題/領域番号 |
21K06014
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
野間 健太郎 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (90787318)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 行動 / 老化 / C. elegans / 神経機能 / ホルモン / スクリーニング |
研究実績の概要 |
これまでに我々は、線虫の匂い(ジアセチル)に対する走性(化学走性)を指標として、老化による神経機能減弱の分子メカニズムを研究してきた。2023年度は、これまでの結果の一部を論文として発表した。 昨年度までに化学走性行動の老化を制御する遺伝子として単離した核内受容体NHR-76が神経細胞、特にジアセチルの感知を行うAWA感覚神経細胞で機能することを見出した。さらに、NHR-76の解析から、その機能を調節する脂溶性ホルモンの存在が示唆された。 昨年度までの研究で、順遺伝学的スクリーニングのスループット性を改善するために、ODR-10タンパク質にGFPを融合した系統を作製した。しかし、残念ながらこの系統は行動に異常が生じたため、スクリーニングに用いることは困難であると判断した。そこで、野生型線虫を用いて順遺伝学的スクリーニングを行い、老化しても化学走性能を高く保つ変異体として、新たに2つの変異体を単離した。この内の1系統knj61変異体について全ゲノム解析を行った結果、すでに単離されているnhr-76遺伝子に変異は確認されなかったので、新規の老化制御遺伝子であると期待される。 行動の減弱が起こらない変異体を複数単離できたことが意味するのは、行動が遺伝的プログラムによって制御されているということである。化学走性は餌の匂いに向かう行動であるので、生殖を終えた加齢個体が、化学走性能を積極的に失い、若齢個体と競合しないようにすることは、種の集団全体としての適応度を上げるために重要であるのかもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は現在、順調に進捗している。2023年度は、これまでの結果の一部をScientific Reports誌に発表した(Suryawinata et al., Sci Rep, 2024)。 さらに、昨年度までに化学走性行動の老化を制御する遺伝子として単離した核内受容体NHR-76について、機能細胞の特定を行った。nhr-76は腸と神経で発現しているので、これらの細胞でのレスキュー実験を行い、nhr-76が神経細胞、特にジアセチルの感知を行うAWA感覚神経細胞で機能することを見出した。さらにNHR-76の発現量や核局在が加齢によって変化しないことが明らかになった。このことから、NHR-76のリガンドである脂溶性ホルモンが加齢によって変化し、行動を減弱させているというモデルが立てられた。 昨年度までの研究で、順遺伝学的スクリーニングのスループット性を改善するために、ODR-10::GFP系統を作製し、この発現量が加齢に伴って減少することを確認した。2023年度はODR-10::GFP系統の蛍光輝度を用いて効率よく順遺伝学的スクリーニングとマッピングを実施する予定であったが、この系統が化学走性行動を阻害してしまうことが明らかになり、この系統をスクリーニングに用いることは困難であると判断した。そこで、スループット性は落ちるものの、nhr-76を単離した時と同様に、野生型線虫を用いて化学走性の老化を指標とした順遺伝学的スクリーニングを行った。そして、老化しても化学走性能を高く保つ変異体として、新たに2つの変異体を単離した。この内の1系統knj61変異体について全ゲノム解析を行った結果、すでに単離されているnhr-76遺伝子に変異は確認されなかったので、新規の遺伝子であると期待される。現在、SNP-SNPマッピングによってknj61の原因遺伝子の特定を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
nhr-76の機能解析については論文発表のめどがたったので、論文発表に向けてデータの収集と論文執筆を進める。さらに、NHR-76の機能解析から脂溶性ホルモンが「老化シグナル」として機能する可能性が示唆された。また、最近、生殖能力の減弱と化学走性能力の低下に相関があることが明らかになりつつある。今後は生殖細胞が老化ホルモンを出しているという仮説をもとに実験を進めたい。
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