研究課題/領域番号 |
21K06016
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
谷口 一郎 京都大学, ウイルス・再生医科学研究所, 助教 (00467432)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | RNP remodeling / RNA export / RNA helicase |
研究実績の概要 |
真核細胞では核内で合成されたRNAはタンパク質合成などに関与するために細胞質へ輸送される(RNA核外輸送)。RNA核外輸送は特異的なタンパク質因子群がRNAに結合することによって行われる。RNA核外輸送に先立ち、転写直後のmRNA上にはさまざまなRNA結合タンパク質が集合し、hnRNPと呼ばれる複合体が形成する。私たちは以前、hnRNP構成因子のhnRNPCが異常なRNA輸送複合体形成を抑止すること、また、RNA核外輸送のためにはhnRNPの解体が必要であることを報告した。これまで私たちは試験管内反応系を構築し、RNAヘリカーゼのUAP56がhnRNPの解体を促進することを見出した。 本年度は、UAP56によるhnRNP解体の分子機構を明らかにするため、hnRNPCのRNA結合を詳細に調べた。具体的には、hnRNPCのさまざまな変異体の組換えタンパク質を大腸菌で発現させ精製した。それらのタンパク質を用いて、試験管内RNA-タンパク質結合実験を行った。その結果、2つあるRNA結合ドメインのうち、塩基性アミノ酸に富んだドメインがhnRNPCの強いRNA結合活性を担っていることを確認した。また、hnRNPCの4量体形成がRNA結合を強固にしていることも明らかにした。 hnRNPCのRNA結合に関して、mRNAの5'末端のキャップ構造に結合するCBCとの関連も調べた。私たちは以前、CBCとhnRNPCが直接結合することを報告した。この直接結合により、異常なRNA輸送複合体形成が抑止されていると考えられる。ただし、hnRNPCとCBC間の相互作用がmRNA上で起こるかは不明であった。このことを検証するため、試験管内RNA-タンパク質結合実験を行った結果、CBCはhnRNPCのRNA結合を増強した。この結果はCBCとhnRNPCはRNA上で相互作用することを強く示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
hnRNP解体の分子機構を明らかにする目的で、hnRNPCのRNA結合およびCBCとの相互作用に焦点を絞って研究を行った。その結果、上述の通り、hnRNPCを中心とするRNP形成に関して新たな知見を得ることができた。以上の成果を論文にまとめて投稿中である。 試験管内反応系の構築によりUAP56にhnRNP解体活性があることがわかったが、細胞内で実際に活性があるかは不明である。このことを検証するためUAP56ノックダウン細胞を用いて免疫染色実験を行ったが明瞭な結果は得られなかった。これは当初予期しないことであったが、より直接的に検証できる生化学的手法を考案した。具体的な方法は「今後の研究の推進方策」に記す。 以上、論文投稿中であることと代替案を考案できたので「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内でUAP56がhnRNP解体を行っていることを生化学的に検証する。具体的には、HeLa細胞に紫外線を照射し、hnRNPCとmRNAを架橋させる。その後、ポリA+RNAをオリゴdTビーズによってプルダウンする。RNAとともにプルダウンされたhnRNPCをウェスタンブロッティングによって検出する。この方法により、細胞内でのhnRNPCのmRNA結合を調べることが可能である。UAP56をノックダウンした細胞では、hnRNPが解体せずにhnRNPCがRNAに結合したままであるか、つまりhnRNPC量が増えるかを調べる。 UAP56がhnRNPCを解体する様子を高速AFMを利用することにより観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度にhnRNPC変異体の過剰発現によるRNA輸送解析を行い、その結果を基に論文発表する予定であった。しかし、変異体が発現しない、またはドミナントネガティブに働かないことがわかった。そこで計画を変更しタンパク質間結合実験を行うこととしたため、未使用額が生じた。このため、タンパク質間結合実験と論文発表を2022年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることにしたい。
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