細胞は各種ストレスを含む細胞環境に応答して遺伝子発現制御を行う。真核生物の遺伝子の多くはイントロンで分断されており、機能的なmRNAが生成するにはイントロンを除去する核内スプライシング反応が必須である。選択的スプライシングの制御は、プロテオーム変化を介し、細胞環境に応じた細胞の振る舞いや恒常性の維持に働く遺伝子発現制御機構として重要と考えられるが、その分子基盤や個体レベルでの役割については多くの未解明な問題が存在する。 本研究では、熱ストレス応答性の選択的スプライシング制御因子として同定したSRSFやhnRNP Kなどが通常温度でも豊富に存在するRNA結合タンパク質であることから、これら制御因子の翻訳後制御、とりわけ、リン酸化・脱リン酸化による機能調節が熱ストレス応答制御の中核をなしているとの作業仮説を立て、主にヒト培養細胞においてその検証と詳細な分子基盤の解明を行うとともに、熱応答性制御を受けるエキソンをゲノム編集により恒常的に挿入あるいは欠損するよう改変した遺伝子を持つゼブラフィッシュ系統を作製し、熱ストレスにより生成する選択的スプライシング産物が動物のストレス応答や恒常性維持にどのような役割を果たすか明らかにすることを目的として研究を行ってきた。その結果、ヒトtnrc6a遺伝子の選択的スプライシングが、スプライシング調節因子SRSF10の特定のセリン残基のリン酸化状態によって変化することなどを示すとともに、tnrc6c遺伝子やSRSF2遺伝子における新規の熱ストレス応答性スプライシング制御機構を明らかにした。また、最終年度は、主に、熱ストレス応答制御を可視化するレポーター遺伝子のトランスジェニック実験系の改良や、高効率なCRISPR/Cas9法を用いたゲノム編集によるRNA結合タンパク質遺伝子の変異体作製などに取り組んだ。
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