研究課題/領域番号 |
21K06020
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
岡田 悟 九州大学, 医学研究院, 助教 (30734488)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 蛍光タンパク質 / BiFC / CRISPR/Cas / 出芽酵母 / GFP結合タンパク質 |
研究実績の概要 |
ヒストンの翻訳後修飾は、DNAのメチル化と並んで、エピジェネティック制御の中核をなす分子機構である。その制御メカニズムの動的側面を理解するためには、「どのタイミングで」「どの細胞において」「どの種類の修飾が」「細胞核内のどの領域において」「ゲノム上のどの位置で」生じるのかを調べることが必要不可欠である。本研究では、CRISPR/Cas9システム、ヒストン修飾認識ドメイン、Bimolecular Fluorescence Complementation (BiFC)を組み合わせて利用する。 本研究では、これらの組み合わせにより、上記の情報要素すべてを同時に取り出すことのできるイメージング手法を確立し、これを用いてヒストン修飾がゲノム上を伝搬していく速度を単一の生細胞単位で計測する。このような計測を通じて、細胞ごとにヒストン修飾伝搬速度はどの程度バラつきうるのか?修飾酵素のリクルート因子やヒストンリモデラーの変異はヒストン修飾伝搬速度に対して単一細胞単位でどのような影響を及ぼすのか?クロマチンの核内位置とヒストン修飾伝搬速度の関係は?といった、これまで検証されてこなかった疑問に対して答えを得ることを目的とする。 今年度は、BiFCシグナルの時間的変化を長時間にわたって観察することを可能にすることを目的として、GFP由来蛍光タンパク質の退色を遅延させる手法の開発に注力し、GFP結合タンパク質の共発現によって、幅広いGFP由来蛍光タンパク質の退色速度が遅延することを見出した。また、この退色遅延現象は、細胞内のみならず、精製したGFP由来蛍光タンパク質およびGFP結合タンパク質の2種のみのタンパク質を含む試験管内環境でも生じることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
蛍光タンパク質の退色速度を遅延させる事ができれば、単一遺伝子座におけるBiFCシグナルの時空間的な動態を長時間観察することが可能になる。しかしながら、これまで蛍光タンパク質の退色速度を遅延させることのできる一般的手法は開発されてこなかった。 我々は、出芽酵母細胞内で黄色蛍光タンパク質Venusを融合させた核小体タンパク質Net1(Net1-Venus)とGFP結合タンパク質を共発現させると、Venusの退色が遅くなることを見出した。本年度は、GFP結合タンパク質による蛍光タンパク質の退色遅延がどの程度一般的に生じうるのかを確かめる実験を実施した。 様々な蛍光タンパク質を融合させたNet1を発現する出芽酵母細胞で、GFP結合タンパク質を同時に発現させた結果、GFP、PAGFP、Venus、mGold、mClover3(いずれもオワンクラゲGFPに由来する)については退色の遅延が観察された。mNeonGreenやmCherryといった、オワンクラゲに由来しない蛍光タンパク質については、GFP結合タンパク質の共発現による退色遅延は観察されなかった。核小体に局在するNet1-GFPとは異なり、ミトコンドリア外膜に局在するTom70-GFPやスピンドル極体に局在するSpc42-PAGFPについても、GFP結合タンパク質の共発現による退色遅延が観察された。Spc42-PAGFPについては、GFP結合タンパク質の共発現によって退色速度を遅延させた結果、少なくとも3回の細胞分裂にわたって、既存のSpc42タンパク質分子が娘細胞に継承されていく様子を経時的に観測することができるようになった。また、GFP由来蛍光タンパク質およびGFP結合タンパク質を大腸菌で発現させ、これらを精製したものを試験管内で混合した場合でも、GFP由来蛍光タンパク質の退色遅延が生じることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
GFP結合タンパク質を共発現させることによってGFP由来蛍光タンパク質の退色を遅延させる手法をBiFCに対しても適用していく。具体的には、VenusによるBiFCを観察できることが既知である核小体タンパク質ペアNet1-Sir2をモデルとして、GFP結合タンパク質の共発現によってBiFCシグナルの退色遅延が生じるかどうかを確認する。また、Venus以外のGFP由来蛍光タンパク質のBiFCについても、GFP結合タンパク質の共発現によってBiFCシグナルの退色遅延が生じるかどうかを確認する。 Net1-Sir2 BiFCのモデルケースでGFP結合タンパク質の共発現によるBiFCシグナルの退色遅延が確認されれば、段階的にモデルをよりリアリスティックなものに変更していく。具体的には、クロマチン上で生じたBiFCシグナルを長時間にわたって観察することを念頭に、近接した位置に標的配列を設定したdSpCas9-dSaCas9間のBiFCシグナルの退色速度に対するGFP結合タンパク質共発現の効果を測定する。 ゲノム上の特定位置でのDNAの二本鎖切断を生細胞内で可視化できる出芽酵母細胞株を作成する。具体的には、CUP1アレイ近傍のDNA二本鎖切断導入予定部位に隣接する位置に、ParBタンパク質集積の起点となるparS配列をノックインする。この株において蛍光タンパク質を融合させたParBを発現させると、ParBはparS配列をコアとして、DNA上に一次元的な広がりをもって結合し輝点を形成するが、DNA二本鎖切断によって引き起こされるリセクションによってその結合が失われ、輝点が消失する。この輝点消失タイミングをDNA二本鎖切断タイミングとして観測することができる。このような菌株において、DNA二本鎖切断の人為的誘導を最適化するための条件検討を実施する。
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