研究課題
真核生物の核輸送因子は、細胞の核膜上に存在する核膜孔を介し、タンパク質や核酸などサイズの大きな分子を選択的に核内外へと輸送する。核輸送因子のうち、importin αは核へと運ばれるタンパク質の核局在化シグナルを認識、結合し、輸送複合体を形成して核膜孔を通過する。本研究は、importin αによる新たなクロマチン機能の制御機構を解明し、高次生命現象におけるimportin αの機能の理解を目指す。令和3年度はimportin αがDNAに直接結合することを明らかにし、その結合様式を特定したことを原著論文として発表した。importin αのDNA結合サイトはこれまでにimportin βとの相互作用にはたらくIBB domain (importin β binding domain)として知られていた領域に含まれ、塩基性アミノ酸に富むαへルックス構造をとる。我々はこの新規ドメインをNAAT domain (nuclear acid associating trolley pole domain)と名付けた。NAAT domainは静電的相互作用により幅広い配列のDNAに結合しつつ、特定の配列にはより強く結合することを見つけた。また、importin αはNAAT domainでDNAに結合しつつ、同時に核輸送基質とも結合可能であることを示した。IBB domain は従来、importin β以外にもimportin α自体の核局在化シグナル結合部位、および核外輸送因子であるCASとも結合することが知られる。今後、本研究でimportin αのクロマチン結合をさらに理解するにあたり、複数の相互作用を切り分けて機能を解析する必要がある。そこで、IBB domainの生化学的特性をアミノ酸レベルで詳細に分析し、各相互作用に重要なアミノ酸を特定した。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、最初にimportin αによるクロマチン機能の制御機構を解明し、次に高次生命現象におけるimportin αの機能の理解を目指す予定である。初年度は当初の計画通り、importin αによるクロマチン機能の制御機構の解明を目指し、まずimportin αがDNA結合タンパク質であることと、そのユニークな結合様式を原著論文として発表し、世界に発信できた。また、本研究の基軸となるimportin αによる輸送基質のDNAへのリクルートをモデル基質を用いて実験的に示すことができた。この成果をもとに、計画の通りにimportin αとクロマチンの相互作用を解析している。また、今後の分子レベルでの機能解析と高次生命現象におけるimportin αの機能の理解を目指した研究段階においてimportin αのクロマチン結合を核輸送活性と切り分けて解析することは必要不可欠である。これを可能にすべく、importin αの機能ドメインの生化学的特性を詳細に分析し、各相互作用に重要なアミノ酸を特定することができた。これらの点から、本研究計画は順調に進展していると言える。
本研究は今後、当初の計画通りまずimportin αによる新たなクロマチン機能の制御機構を解明し、次に高次生命現象におけるimportin αの機能の理解を目指す。クロマチン機能の制御機構についてはin vitroレベルの実験系を確立し、importin αの機能を分子レベルで解析する。得られた成果をもとに細胞を用いたin vivoレベルの実験系で検証する。これらの過程に必要となる実験系の確立にはすでに取り掛かっており、令和4年度中に実現可能であると見込んでいる。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件)
Genes to Cells
巻: 26 ページ: 945-966
10.1111/gtc.12896
巻: 27 ページ: 173-191
10.1111/gtc.12917