RNase Pは、生命に必須のTransfer RNA(tRNA)の成熟化に関わるRNA切断酵素である。このRNase Pにはリボザイム型とエンザイム型があり、触媒分子がそれぞれ「RNA」と「タンパク質」であるにも関わらず同じ反応を触媒する。リボザイム型RNase Pの反応機構の解明は進んでいるが、エンザイム型RNase Pの研究は進んでいなかった。エンザイム型RNase Pは、真核生物のもつ「PRORP」と、細菌・アーキアのもつ「HARP」の2種類が存在することが近年明らかになっている。この二つの酵素は配列類似性がほぼ無いが、リボザイム型RNase Pと同様に、同じ基質(tRNA前駆体)に対して同じ切断反応を行う。そこで、本研究計画は、エンザイム型RNase P-基質複合体の立体構造を決定し、エンザイム型RNasePの反応機構の構造基盤を原子レベルで解明することで、酵素の多様性とダイナミックな分子進化に関する知見を得ることを目的とした。本研究では、HARPの酵素単独構造をクライオ電子顕微鏡(Cryo-EM)単粒子解析によって決定して、世界に先駆けて発表することができた。さらに、基質tRNA前駆体との複合体構造の決定もCryo-EM単粒子解析によって成功した。この酵素は12量体を形成することによって、巨大RNAからなるリボザイム型と同じようにtRNA特有のエルボー領域を認識して、tRNA前駆体の特異的切断を達成していた。これは収斂進化の結果であり、RNAの役割がタンパク質へ移行する過程で、最小のタンパク質でも機能を持つための生命の戦略と考えることができる。本研究によって、さらにHARPは多量体化によって、他のRNase Pが持たない副次的な反応を触媒する可能性も発見しており、今後の酵素の分子進化に関する知見の一つの礎になったと考えられる。
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