研究課題/領域番号 |
21K06038
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
佐藤 毅 京都薬科大学, 薬学部, 教授 (90403013)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Notchシグナリング / 半合成 / 分子動力学計算 |
研究実績の概要 |
Notchシグナリングは生体の恒常性維持に関与する。Notch受容体はリガンド結合依存的に膜内切断により自身の細胞質内領域である転写因子を細胞内へ放出するが、その活性化機構にはcontext dependencyが存在する。つまり、異なるリガンドが同種受容体に結合し、類似の機構で同様の転写因子を産出するが、その結果は何らかのcontextに応じて、異なる遺伝子の活性化として観察される。その機構は未知であり、我々は脂質依存的なNotch受容体の構造、clusteringの差異がこのcontext dependencyを与えると考え、その機構の構造化学的解析を行うこととした。 21年度は受容体膜貫通部位の挙動解析を分子動力学計算で行った。その結果、DOPC/DOPSでのみ構成される膜中においては、当該膜貫通部位は会合しない(既知データの確認)が、ガングリオシド、コレステロールを含んだ膜組成においては、会合することがわかった(新規)。 一方、膜中における構造解析を想定したNotch受容体とリガンドDll1とDll4の調製も開始した。蛍光プローブ等の標識を導入すべく、それら蛋白質の半合成を行うにあたり、各合成ブロックの調製を開始した。現時点ではDll4のC末端側合成ブロックの大腸菌による発現、精製を完了するに至っている。さらにそのN末端合成ブロックの化学合成も完了しており、現在はそれら合成ブロックのligation法による縮合条件の検討を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナの影響もあり、半合成による試料の調製は若干遅れ気味ではあるが、その分、分子動力学計算による解析は進んでおり、結果も伴っていると感じている。特にNotch受容体膜貫通部位の解析においては、これまでは脂質二重層中においては二量体を形成しないとされていたが、これは脂質組成に依存し得るという結果は新規のものであり、今後の展開においては重要である。 半合成に関しては、各合成ブロックの分子生物学的調製に懸念はあったが、現時点においては発現、精製ともに大きな問題なく進行している。
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今後の研究の推進方策 |
今回の分子動力学計算による解析では受容体膜貫通部位がガングリオシド(GM1、GM3)、コレステロール存在下で会合し得るという結果を得た。以前の計算ではNotch受容体のリガンドDll1、Dll4はそれぞれGM1、GM3に対して結合特異性があることを見出している。これらの結果を合わせると、リガンドは受容体の存在環境(GM1またはGM3が近傍に存在すること)を認識することで、その結果、結合する受容体の構造が異なるという可能性を考えることができる。細胞上においてこれらの認識機構を示すのは困難であるため、まずは、リガンドの脂質認識における特異性、受容体構造形成における脂質特異性を精査する。今後は、発現系を用いて調製した試料、または半合成した試料を用いることで、これらの特異性をみいだすべく、分光学的実験を行う。 リガンドの脂質認識に関しては、GM1、GM3等をそれぞれ有するリポソームを調製し、簡単なプルダウン解析によって知見を得ることとする。一方、受容体の構造形成に関しては、膜貫通部位の会合を蛍光実験や固体NMR実験で解析していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
21年度、当初予定した最も大きな支出はワークステーションの購入であったが、半導体の価格高騰に伴い、期待していたスペックのものが購入できなかった。22年度の交付額と合わせて150-180万円程度のものを購入する計画である。一方、試薬に関してはコロナの影響により外部施設での固体NMR測定が進まなかったため、安定同位体標識されたアミノ酸の消費が少なかったこと、その他に関しては過去の実験での余剰分で間に合ったことで、21年度は購入の必要がなかったが、次年度は新たに購入する予定である。
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