研究課題/領域番号 |
21K06052
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
肥後 順一 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (80265719)
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研究分担者 |
笠原 浩太 立命館大学, 生命科学部, 助教 (90634965)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | GPCR / ボセンタン / エンドセリンリセプター / 結合過程 / 自由エネルギー地形 / fly-casting / conformational selection / 阻害効果 |
研究実績の概要 |
我々が最近開発した立体構造探索法「Genetic algorithm にサポートされた多次元仮想空間と連動する分子動力学法(GA-guided-mD-VcMD)」は、生体高分子系に複数の反応座標を設定し、その反応座標に沿った構造変化を促進する。そしてその反応座標空間での自由エネルギー地形を算出する。本申請ではこの計算手法を使い、膜蛋白質である G蛋白質共役型受容体(GPCR)ファミリーに属するヒト・エンドセリン受容体タイプB (hETB)と薬剤分子ボセンタン(bosentan)の結合・解離過程を構造探索し、結合・解離の自由エネルギー地形を算出する。 GPCR は深い結合ポケットを持ち、そこにリガンドが結合していくとき複雑な過程を経ると考えられる。従来のシミュレーションでは、統計的優位性を保ってそのような複雑な過程を構造探索することは難しい。我々のGA-guided-mD-VcMD法で自由エネルギー地形を求め、この複雑な結合過程を明らかにすることを目指した。 計算の結果、結合自由エネルギー地形が得られた。hETB から離れたところからボセンタンが接近し hETB の深いポケットに結合していくとき、「fly-casting メカニズム」と「orientation selection メカニズム」という二つのメカニズムが連動して働くことがわかった。そして、最終的には、ポケットの底で最安定構造(実験で決まった複合体構造)が形成されることがわかった。 GPCRは重要な創薬ターゲットであり、ボセンタンはそれに結合する薬物である。計算では、hETB、ボセンタン、生体膜(脂質二重膜)、コレステロール分子、溶媒(水分子とイオン)等のすべてがflexibleな全原子モデルで表現した。計算機プログラムは gromaxを、計算機は東京工業大学のTSUBAME3.0システムを使った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題は、GPCR ファミリーに属するヒト・エンドセリン受容体タイプB (hETB)と薬剤分子ボセンタンの結合・解離過程を、私が開発したシミュレーション法(GA-guided-mD-VcMD)により構造探索し、結合・解離の自由エネルギー地形を求め、その複合体形成のメカニズムを得ることを目的とする。 最も労力が必要なのは、系に対するGA-guided-mD-VcMDシミュレーションの実行である。それが予定よりスムーズに進み、初年度でシミュレーションの大部分をほぼ終了した。構造探索は、ボセンタンとhETBが互いに遠く離れた位置から開始し、最終的にはいくつかの複合体構造が得られた。探索されたすべての立体構造からなる自由エネルギー地形を算出した。 これまでの解析の結果、以下のことが得られた:(1) 熱力学的に最も安定な構造が、実験で決定された複合体構造に一致した。(2) 複合体形成の初期では、hETBの長いN-端側テイル(天然変性状態にある)が伸びて行き、ボセンタンを捕まえる(fly-casting)。(3) 捕まったボセンタンは、天然変性領域の根元にシフトする。このとき、系は、自由エネルギー地形上の障壁を越える。(4) 根元には hETB の結合ポケットの入り口があり、ボセンタンはポケットに入っていく。ただし、ボセンタンはある特定の向きを持っているものだけが入っていく(orientation selection)。(5) ポケットの中でボセンタンはより深い位置へと移動していく。このとき、ボセンタンと hETB の引力的な静電相互作用が強くなっていく。 なお、ここまでの成果を BioRxiv (https://doi.org/10.1101/2022.02.28.482421)にアップロードし、いくつかの学会や研究会で紹介した。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、本研究で最も労力が必要なシミュレーションの部分は、初年度の研究でほぼ終えた。今後は、この結果を論文化する予定である。その過程で、さまざまな研究者に研究を紹介して、コメントを得る。論文化の過程で不足している計算(例えば、追加的・補足的なシミュレーション)があれば、それを行う。また、論文原稿を英文校閲業者に依頼して、読みやすい文章にする。 同時に、さまざまな機会(研究会や学会など)をとらえて研究発表して行きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会や研究会で発表するための旅費として予算の使用を考えていた。実際、新型コロナのデルタ株の蔓延状況は 2021 年の秋に一旦収まったので、使用できるのではと考えていた。しかし、冬に入り今度はオミクロン株が急速に蔓延しだし、出張する機会を逸した。その結果、旅費が全く使えなかった。 なお、学会や研究会での発表は、オンラインで行った。
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