ミトコンドリアは、膜融合・膜分裂を繰り返す動的なオルガネラである。膜融合と膜分裂の平衡異常が、細胞機能や分化の異常、病気の原因となることから、膜融合の分子機構が生物学・医学など様々な分野から注目されている。本研究では、膜融合GTPase Mfn2の精製タンパク質と人工脂質二重膜小胞(リポソーム)を用いた膜融合のin vitro膜融合解析から、Mfn2による外膜融合の分子機構の解明を目的としている。 令和5年度は、脂質が膜融合に与える影響について、詳細解析を行った。in vitro膜融合解析で用いるミトコンドリア外膜モデルリポソームは、複数の脂質で構成されている。ホスファチジルエタノールアミン(POPE)を含まないリポソームにMfn2を挿入した場合、膜融合活性の低下が観察された。さらにカルジオリピン(CL)を含まないリポソームにMfn2を挿入したところ、膜融合活性の著しい低下が観察された。CLを含まない小胞体モデルリポソームは、Mfn2を挿入しても膜融合活性を示さないが、CLを含んだ場合、GTPに依存した膜融合を観察することができた。これらの結果からMfn2による膜融合はCLにより促進することが分かった。一方、飽和型の炭化水素を含むCLを含むリポソームでは、膜融合活性の低下が観察されたことから、Mfn2による膜融合は膜の曲率や流動性に大きく影響を受けることが示唆された。 研究課題を始めた当初は、精製Mfn2の収量の低さ、Mfn2を含むリポソームの調製の難しさから、詳細な解析が困難であった。Mfn2のコドンユーセージの最適化、発現に用いるカイコの飼育方法の改良、界面活性剤の最適化により、高い融合活性を持つMfn2を含むリポソームの調製が可能となった。今後、脂質膜がMfn2の会合体形成、GTP加水分解に与える影響を明らかにすることで、外膜融合機構の更なる理解が進むことが期待できる。
|