本研究では心筋における調節ペプチドであるphospholamban(PLN)による筋小胞体Ca2+ポンプの活性調節メカニズムの理解を目的としている。令和4年度は、前年度に引き続き、①COS細胞-アデノウイルス蛋白質発現系を用いたSERCA-PLN融合蛋白質の大量生産系の構築、②クライオ電顕を用いた原子構造決定のための試料作製条件の最適化を行うとともに、新たに、③浮遊293細胞-BacMamウイルス蛋白質発現系を用いたSERCA-PLN融合蛋白質の大量生産系の構築を行った。 ①前年度までに作成した20個のGly残基から成るリンカーによりSERCAとPLNを遺伝子工学的に連結した融合蛋白質の発現用コンストラクトを用いてアデノウイルスを作製した。さらに、疑似燐酸化変異を導入した融合蛋白質(S16E変異体)の発現用アデノウイルスも作製し、これらのウイルスをCOS7細胞に感染させ小スケールの発現チェックを行った。その結果、構造解析に十分な量の発現が観察されたため、ウイルスの大量調製を行い、高力価のアデノウイルスを得た。②クライオ電顕を用いた単粒子解析による構造決定を目指し、ウサギ骨格筋より精製したSERCAのナノディスク化条件を検討した。膜骨格蛋白質としてはMSP1D1を用いて界面活性剤の種類、界面活性剤の除去方法(時間、温度など)、ゲルろ過条件などを検討し、電顕観察に適したナノディスク化及び観察用グリッド作製条件を最適化することができた。③浮遊293細胞-BacMamウイルス系を用いたSERCA-PLN融合蛋白質の発現系構築を検討した。融合蛋白質の遺伝子を導入したバクミドを作製し、ウイルス調製条件を検討したところ高力価のウイルスを作製することに成功した。蛋白質発現時の培地の種類や添加剤などを検討することにより、クライオ電顕解析に適用可能な量のタンパク質を得ることができた。
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