研究課題/領域番号 |
21K06067
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山本 泰憲 神戸大学, 医学研究科, 准教授 (30467659)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小胞体 / 代謝リプログラミング / Three-way junction / TMCC3 / リン酸化 |
研究実績の概要 |
小胞体は網目状の膜形態をした細胞内小器官であり、生命の恒常性維持の中心的な役割を担う。小胞体は膜形態を意図的に変化させるが、形態変化の分子機構と生理的意義は不明である。最近、私どもは小胞体膜タンパク質TMCC3を同定し、TMCC3がp30に結合して小胞体の形態変化を誘導することを予備的に見いだしている。細胞はストレスにさらされると代謝をリプログラムして恒常性の維持を図るが、p30はこの代謝リプログラミングに関わるシグナル分子である。そこで本研究ではTMCC3とp30をツールにして小胞体の形態変化を誘導する分子機構を明らかにし、小胞体の形態変化を起点とする未知の代謝リプログラミング経路の実体と形態変化の生理的意義の全容を解明する。 本年度はTMCC3複合体の性状解析を行い、以下の知見を得た。TMCC3におけるp30結合領域を決定した。p30結合領域が細胞内でリン酸化修飾されていることを見出した。部位特異的変異導入によりリン酸化部位を特定した。p30結合領域のリン酸化修飾を消失させたTMCC3変異体はp30との結合を顕著に低下した。GFPを融合したTMCC3(GFP-TMCC3)および、リン酸化されないTMCC3変異体(GFP-TMCC3変異体)を安定に発現する細胞株を樹立した。GFP-TMCC3およびGFP-TMCC3変異体は小胞体のthree-way junctionに局在した。これらの細胞株にp30を過剰発現すると、GFP-TMCC3はthree-way junctionへの局在を消失し、小胞体の形態変化が誘導された。他方、GFP-TMCC3変異体はthree-way junctionへの局在を保持し、小胞体の形態変化をおこさなかった。以上の結果から、TMCC3-p30系による小胞体の形態変化は、TMCC3のリン酸化修飾により制御されていることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はTMCC3のp30結合領域を決定し、p30結合領域が細胞内でリン酸化修飾を受けることを見出した。さらに、リン酸化修飾によりTMCC3のp30への結合が増強すること、p30に依存したTMCC3による小胞体の膜形態変化がリン酸化修飾により促進的に調節されることを見出した。リン酸化は細胞内シグナルを伝達する普遍的な手段であることから、これらの結果により、小胞体の膜形態変化と代謝リプログラミングが機能的および物理的にTMCC3のリン酸化状態により制御されている可能性が考えられた。今後、TMCC3をリン酸化する酵素の同定、TMCC3のリン酸化状態とストレス応答との機能関係、TMCC3のリン酸化状態と代謝リプログラミングとの機能関係の解析を推し進めることで、小胞体の形態変化を起点とする未知の代謝リプログラミング経路の実体の解明に迫ることができる可能性がある。このように小胞体の膜形態変化および代謝リプログラミングの調節に関わる新しい知見が得られたことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
人工脂質二重膜に小胞体膜変形タンパク質、小胞体膜融合タンパク質、TMCC3複合体の組換えタンパク質を組み込み、小胞体様の網目状膜形態を試験管内で再構成する。この試験管内再構成系を用い、p30による膜形態変化を阻害することができるTMCC3複合体の変異体や人工フラグメント、あるいは人工ペプチドをスクリーニングする。阻害効果を培養細胞を用いて確認する。他方、膜変形活性が常に活性化されたTMCC3複合体の優性活性型変異体を作製する。この優性活性型変異体が単独でストレス非依存的に小胞体膜形態変化を引き起こすことを試験管内再構成系および培養細胞を用いて確認する。これらにより、ストレス適応における小胞体の膜形態変化を人工的に制御できるツールを開発する。 培養細胞に膜形態変化を阻害するTMCC3複合体の変異体や人工フラグメントを発現あるいは人工ペプチドを添加し、ストレス負荷(低酸素、酸化ストレス)を与える。他方、培養細胞に膜変形活性の優性活性型変異体を発現させ、ストレス負荷を与えずに培養する。コントロールとして、通常の培養細胞にストレス負荷のみを与えたものを準備する。小胞体の形態変化に人工的な摂動を加えたこれらの細胞から、RNA、タンパク質、代謝物質、脂質を抽出し、次世代シーケンサーと質量分析装置により、RNA-Seq解析、リボソームプロファイリング、リン酸化プロテオーム解析、メタボローム解析、リピドミクス解析を行う。得られた多階層オミクスデータをトランスオミクス解析で階層縦断的に統合することで、ストレス適応における代謝ネットワーク変動を再構築し、TMCC3複合体による小胞体膜形態変化により直接変動を受ける代謝リプログラミング経路の実体を同定する。
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