小胞体は網目状の膜形態をした細胞小器官であり、恒常性維持の中心的役割を担う。細胞はストレスにさらされると小胞体の形態を変化させ、代謝をリプログラムして恒常性の維持を図る。本研究では小胞体膜形態調節タンパク質TMCC3をツールとして小胞体の形態変化を誘導する分子機構を明らかにし、小胞体の形態変化を起点とする未知の代謝リプログラミング経路の実体と形態変化の生理的意義の全容解明を目的とする。 前年度までに、TMCC3は15番目のセリン残基がリン酸化されることで代謝リプログラミングに関与するシグナル伝達制御分子14-3-3γと結合すること、この結合がTMCC3による小胞体の形態調節に必須であることを明らかにした。さらに、小胞体ストレスによる小胞体の形態変化に、TMCC3によるatlastinの活性制御が関与していることを明らかにした。 最終年度は、代謝の同化経路を推進するシグナル伝達分子AktとTMCC3の機能関係について解析し、以下の知見を得た。HEK293細胞にTMCC3を過剰発現するとAktを活性化した。これに対し、TMCC3の216番目のセリン残基がリン酸化されない変異体(TMCC3変異体)の過剰発現はAktを十分に活性化することができなかった。U2OS細胞の内在性TMCC3をsiRNAノックダウンすると小胞体の網目状の構造が障害された。TMCC3ノックダウン細胞に野生型TMCC3のトランスフェクションをすると、小胞体の膜形態が回復した。これに対し、TMCC3変異体のトランスフェクションでは、核周辺でbleb状の異常な小胞体膜構造が誘導され、小胞体の膜形態を十分に回復することができなかった。以上の結果から、TMCC3はリン酸化依存的にAktを活性化すること、TMCC3によるAkt活性化が核周辺の小胞体の膜形態の調節に重要であると考えられた。
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