研究課題/領域番号 |
21K06072
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 雄広 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (50383774)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 解糖系 / アルギニンメチル化 / 脂質代謝 / 抗がん剤耐性 |
研究実績の概要 |
非必須アミノ酸セリンの生合成系は一般的に予後の悪いがん種で活性化しているが、これはセリン代謝系を経由した葉酸代謝による核酸合成が旺盛な増殖能を賄うためと解釈されている。本研究は、難治性のがんにおいて活性化しているセリン生合成経路中の律速酵素PHGDHに着目し、その修飾レベルが酵素活性およびがんの増殖、化学治療への感受性に与える機構を明らかにすることを目的とする。 本年度(1年目)は複数の乳がん細胞株や臨床検体を用いて、以下を明らかにした。 ①解糖系およびその分岐経路であるde novo セリン生合成系が活性化している。②パクリタキセル抵抗株では解糖系律速酵素群のメチル化レベルが亢進している。③乳がん針生検サンプルではトリプルネガティブ検体において上記解糖系酵素群の高メチル化が認められた。④パクリタキセル耐性株では高い新規脂肪酸合成能を有す。
以上のように、予後不良の化学治療抵抗性乳がんでは解糖系由来の炭素骨格を受け継ぐセリン代謝系を、その律速酵素PHGDH 活性を高く保つことで、各種ストレスから免れることが明らかになった。また、治療抵抗性と代謝酵素群のアルギニンメチル化に正の相関があることが明らかになり、特にPHGDHは複数の翻訳後修飾が拮抗的に作用し酵素の安定性に寄与し、結果として核酸合成、脂質合成、抗酸化物質等のがん細胞の急速な増殖を賄うためのバイオマス産生経路を活性化する機序の一端を解明した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、主にパクリタキセル感受性細胞と非感受性細胞間での代謝特性の違いを探索するともに、セリン生合成系の律速酵素であるPHGDH の活性制御機構の解明を進めてきた。セリン生合成系は乳がん、非小細胞性肺がん、膵癌、脳腫瘍など一般的に予後の悪いがん種で活性化していることが知られているが、これらは従来ストレス応答を介した関連遺伝子の発現上昇によって説明されていたが、本研究によりPHGDH の修飾変化がセリン生合成系への炭素骨格の流入を規定する重要な因子であることを見出し、提案研究初年度としは概ね順調に進んでいると思われる。次年度以降、PHGDHの活性制御を詳細に調べることで、代謝特性に介入しうる、治療抵抗異性乳がんに対し新たな治療標的を提示できると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では細胞増殖に不可欠な核酸、抗酸化物質、脂質などのバイオマス産生に重要であるセリン生合成系代謝酵素PHGDHの活性制御機構を、その修飾部位の同定および修飾―活性機能相関によって明らかにすることを主眼とする。本年度の成果から生細胞ラベル法によりチオールのS-パルミトイル化部位を同定するとともにアルギニンメチル化酵素とPHGDH が相互作用し、PHGDH のメチル化修飾が酵素タンパク質の安定化に寄与することを明らかにした(投稿準備中)。計画2 年目の2022年度は2021年度の成果をより発展させ、PHGDH の修飾部位(S-パルミトイル化システイン、メチル化アルギニン残基)を認識する特異的抗体の作出を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度予定していた、PHGDH修飾部位特異的抗体の作製が次年度に持ち越しとなったため、当初計上していた消耗品費を翌年度に繰り越した。
|