ステロールは真核生物の細胞膜で高濃度に維持されている。この維持メカニズムは完全には解明されていないが、従来、脂質輸送タンパク質による制御を中心に議論されてきた。我々は最近、遺伝子変異株の解析を中心にした酵母遺伝学を通じて細胞膜のリン脂質の非対称性がステロール分子の細胞膜での維持に重要であること、また、脂質輸送活性を持たない細胞膜タンパク質であるSfk1がステロール分子を細胞膜に維持すること、を明らかにした。脂質輸送に直接関わらない遺伝子の変異が示したようなステロール分布への影響というものはこれまで報告されておらず、それゆえ、その制御/維持機構については多くの点が未解明であると推測される。本研究では、細胞膜のステロール分子の維持機構においてタンパク質や脂質がどのように関与しているかを解明することを目指した。この目的のために本研究では、脂質膜環境の変化によりステロールが脂質二重膜表面に露出し、細胞質タンパク質などとのステロールの反応性が促進される「ステロール活性化」という物理状態に着目して研究を進めた。我々は、出芽酵母におけるエルゴステロール(真菌ステロール)の活性化を可視化するプローブ(GFPen-D4H)を開発した。このプローブを用いて同様の活性を持つタンパク質について他に存在する可能性を模索した。遺伝子スクリーニングを通してホスファチジルセリン合成酵素とステロール輸送に関わるLamタンパク質がエルゴステロールの活性化をに重要であることを明らかにした。両者は、遺伝学的に重要な関連性を有して、両者が細胞膜のステロールホメオスタシスに重要な機能を有していることを明らかにした。本研究計画から、細胞膜ステロールを制御/維持する新たな機構を解明したものと考えられる。
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