研究課題/領域番号 |
21K06077
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤原 孝彰 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (70712751)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 糖加水分解酵素 / 反応中間体 / X線自由電子レーザー / シリアルフェムト秒結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
天然のハイドロゲルとして知られるバクテリアセルロース(BC)は,植物由来セルロースを凌駕する強度・保水力や,人工合成高分子ゲルでは見られない生体適合性や生分解性などの優れた物理化学的性質を兼ね備えている.これらのユニークな特徴を有するBCは人工血管や火傷被覆材等の医用材料としての利用が期待されており,実用化に向けて生産性を改善することが切望される.糖加水分解酵素CeSZはBCの生産性に関わることが知られており,CeSZの構造情報を得ることは,合理的なBC生産プロセス構築のために意義がある.そこで本研究では,X線自由電子レーザー(XFEL)を用いたシリアルフェムト秒結晶構造解析(SFX)により,CeSZの動的構造情報を取得し,その加水分解反応の分子メカニズムを明らかにすることを目的とする.令和3年度は,SFX測定に利用可能な微小結晶試料の調製方法を検討した.結晶化溶液の組成を検討することで,数十マイクロメートル角の微小結晶を調製することに成功した.また,バッチ法により結晶化させることで,数百マイクロリットルの微小結晶懸濁液試料を調製した.また,SFX測定に使用する微小結晶を用いた回折測定を実施し,微小結晶が良好な分解能を与えることを確認した.さらに,変異体CeSZとセロオリゴ糖の複合体構造を基に,加水分解反応機構の一端を明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請課題では,SFX測定の際に,微小結晶をXFEL照射地点に連続的に送り込むために,二液混合用リキッドジェットインジェクターを用いる予定である.この輸送方法は試料の消費量が膨大であり,消費する微小結晶懸濁液の量から概算して,数百ミリグラムオーダーの精製標品が必要となる.大腸菌発現系により大量発現した遺伝子組換えCeSZを液体クロマトグラフィーにより精製することで,大腸菌培養液1リットルあたりから数百ミリグラムの精製標品を得ることができているため,安定した精製標品の供給を実現できた.非常に大量の精製標品が得られることで,微小結晶の調製方法の検討を効率よく進めることができた.結果として,今年度計画していたCeSZ微小結晶の調製方法を確立するに至った.また,精製標品を用いて活性測定試験を実施し,当該酵素が結晶化条件付近のpHにおいて酵素活性を保持することを確認した.また,SFX測定に使用する微小結晶の品質を確認するために,SPring-8のBL45XUビームラインで高輝度微小X線ビームを用いた回折測定を実施した.30~50マイクロメートルの微小結晶から分解能2.3Å程度の回折データを取得した.
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今後の研究の推進方策 |
今年度,数百マイクロリットルオーダーの微小結晶の作製および品質確認を実施したことで,SFX測定に向けた準備は着実に整いつつある.しかしSFX測定では,複数の異なる遅延時間(反応時間)における回折データ取得を想定しており,今以上に大容量(数ミリリットル程度)の微小結晶懸濁液を調製する必要がある.そこで今後はバッチ法の液量を増やすことで,試料のスケールアップを目指す.そして,数ミリリットル程度の微小結晶懸濁液が調製可能な場合には,当初の計画通り二液混合法によるSFX測定を実施する.一方で,XFELを利用した回折測定実験は機会が限られることから,並行して従来のX線結晶構造解析により中間体構造を取得可能か検討する.
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