天然のハイドロゲルとして知られるバクテリアセルロース(BC)は,植物由来セルロースを凌駕する強度と保水性を有するほか,人工の合成高分子ゲルにはない生体適合性や生分解性などの優れた物性を兼ね備えている.これらの優れた特徴からBCは,人工血管や火傷被覆材などの医療用材料への用途展開が進められている.しかし BCを有効活用し,新規産業材料の開発をより一層進めるために生産性を改善することが望まれる.糖加水分解酵素CeSZはBCの生産性に関わることが知られており,CeSZの反応メカニズムを詳細に理解することは,合理的なBC生産プロセスの構築に寄与する.そこで本申請課題では,X線自由電子レーザー(XFEL)を用いたシリアルフェムト秒結晶構造解析(SFX)の手法に基づき,CeSZの動的構造情報を取得することで,CeSZによる反応の分子メカニズムを解明することを目的とする.本申請課題の最終年度である令和5年度は,CeSZの微小結晶を用いたSFX測定を行った.測定温度を室温に制御可能な測定プラットフォームを利用したSFXにより,基質結合に関わる一部の残基は極低温条件と異なるコンフォメーションをとることが示され,基質認識に関わる残基の動きに関する情報を得ることができた.また,本申請課題の実施期間で,クライオトラップ法により,CeSZの反応機構に存在する反応中間体の構造を決定することができ,推定反応機構を実証するに至った(論文投稿準備中).さらに,令和4年度に着手した糖質分解酵素AlgEについては,鎖長の異なる複数のオリゴ糖基質の結合状態を決定し,基質認識機構の一端を明らかにした.
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