研究課題/領域番号 |
21K06079
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
久保 健一 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 助教 (60403359)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 自他識別 / 協調的非自己認識 / S-RNase型自家不和合性 / 花粉生理学 / リボヌクレアーゼ活性 |
研究実績の概要 |
ナス科植物の自殖を防ぐメカニズムである自家不和合性は、非自己由来の雌ずい因子を多数の花粉因子を用いて認識する「非自己認識」機構に基づいている (Science 2010; Nat.Plants 2015)。この機構では、雌ずい因子として機能するS-リボヌクレアーゼ(S-RNase)は、花粉管に対する細胞毒として機能する。一方、花粉因子として機能するS-locus F-boxes (SLFs) は、非自己由来S-RNaseの膨大なバラエティーを認識し、解毒することで、非自己花粉の交配和合性を保障するが、自己由来S-RNaseだけは解毒できないので、自己花粉管の伸長は阻害される。本研究は、この非自己認識型自家不和合性機構における自己花粉管細胞への毒性発揮メカニズムを明らかにすることを目的としている。 昨年度は、ペチュニア自家和合生変異株から同定した変異遺伝子、PhML1について、ゲノム周辺領域のDNA配列を単離し、シークエンスを確認した。また、形質転換による機能解析を行うため、PhML1を発現する形質転換ベクターを構築した。 PhML1が正常であるにも関わらず、自家和合性となる別の形質転換系統11mを同定し、その遺伝学的背景を確認するため遺伝学的交配実験を行った。その結果、11mの自家和合性の原因は、S遺伝子座自身にあることが判った。和合性系統とのトランスクリプトームの比較解析を行い、S-RNase遺伝子の発現が損なわれていることが和合性の原因であると示唆する結果が得られた。 自家不和合性表現型発現時のRNA分解の実態(デグラドーム)を解析するため、自家和合性交配時と自家不和合性交配時のトランスクリプトームをリファレンスゲノムにマップし、授粉後雌ずいに含まれる転写物の鎖長を比較した。結果、両者の鎖長には大きな違いを見いだすことは出来なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度には新型コロナウイルス感染症による移動制限は緩和されたものの、東京大学からのサンプルなどの輸送、移管が遅れた影響により、植物体の輸送とその後の栽培に悪影響が生じた。実験に必要な植物サンプルを受け取り後、現在の栽培用温室に配置したところ、生育不良が見られたため、その回復に時間を要した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、昨年度から引き続きデグラドーム解析による被分解RNAの直接解析のための条件検討を行う。より具体的には、被分解RNAの抽出条件、分解産物RNA分子へのタグ配列の付加反応条件を検討した上で、分解産物RNAのライブラリーを調製し、次世代シークエンス解析を行う。また、昨年度同定したPhML1の機能解析のため、PhML1の過剰発現体や、ゲノム編集によるノックアウト体の作成も開始する。新たな自家和合性変異株11mの解析のため、全ゲノムDNAのPacBio Sequel-IIによるロングリードシークエンス解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の久保は、初年度に東京大学から長浜バイオ大学に移籍したが、その時点で本研究費の支給が間に合わなかったため、研究に必要なサンプル等を輸送、移管することができなかった。その後、東京など大都市圏を中心に新型コロナウイルス感染症の感染者数が増大したことから、研究代表者は所属機関から都道府県境をまたぐ移動が制限されたため、サンプル受取のために往来することが不可能になった。結果として、予定していた次世代シークエンス解析等に必要な植物サンプルや、RNA、DNAサンプルの移管に時間がかかっている。 東京大学で栽培、維持されていた植物サンプルの受取り後、生育不良が見られたため予定していた実験が遅れていたが、現在その状況は改善されている。昨年度から繰り越された経費を用い、次世代シークエンス解析の外部委託を行い、受粉後雌ずいトランスクリプトームとペチュニアゲノムDNAシークエンス解析を引き続き行う予定である。
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