研究課題/領域番号 |
21K06081
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
三崎 亮 大阪大学, 生物工学国際交流センター, 准教授 (20571186)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | CHO細胞 / 糖鎖 / 脱フコシル化 / アラビノース |
研究実績の概要 |
フコース結合型(フコシル化)糖鎖の合成経路を担うGDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)をノックアウトしたチャイニーズハムスターの細胞(ΔGMD)を用いて、細胞内タンパク質糖鎖に付加するフコースをフコース構造類似糖へ置換することを試みた。本年度は、野生株とΔGMD株を接着細胞として培養し血清存在下で置換効率が受ける影響を調査した。野生株とΔGMD株におけるフコシル化糖鎖含量は、全糖鎖(全可溶性タンパク質由来の糖鎖のため約70%の高マンノース型糖鎖を含む)のうちそれぞれ14.5%と1.4%であった。各細胞について、終濃度が10 mM(当該濃度では浸透圧による細胞成長の影響は特に見られない)となるようにフコースの構造類似糖であるアラビノースを添加した培地で3週間継代培養し、細胞より糖鎖を調製後に高速液体クロマトグラフィーと質量分析器でその構造を解析した。その結果、前年度はごく微量ながら検出に成功したが、今回は野生株の糖鎖からは質量分析器レベルでアラビノースの付加した構造は検出できなかった。これに対し、ΔGMD株の糖鎖ではフコシル化糖鎖量が1.2%に減少し、さらにアラビノース付加型構造を2.4%の含量で検出することができた。また、アラビノースの代わりに同じくフコースの構造類似糖であるL-ガラクトースを10 mMの濃度で培地に添加することで、ガラクトース付加型糖鎖を生産することにも成功した。野生株でアラビノースへの置換が確認できなかったが、これは血清中に含まれるフコース転移酵素の基質GDP-フコースが置換効率に影響を与えていると推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度終了時までに構築したフコシル化糖鎖合成を約90%抑制したΔGMD株を用いて、本課題の目標である「細胞でフコースをフコース構造類似糖に置換した糖鎖の合成」に成功した。前年度では野生株を用いてフコースの構造類似糖であるアラビノースへの置換を示唆する結果は得られていたが、極めて置換効率が低かったためフコース転移酵素による糖鎖への(de novo経路で合成されたGDP-フコース由来の)フコースの付加と(サルベージ経路で合成を期待するGDP-アラビノース由来の)アラビノースの付加が拮抗しているのではないかと考えられた。このため、GDP-フコースを合成できないフコシル化糖鎖抑制細胞を用いる必要があった。本年度はΔGMD株を利用してアラビノースともうひとつのフコース構造類似糖L-ガラクトースを培養液中に添加し、高速液体クロマトグラフィーおよび質量分析器で十分検出可能な程度に効率よく当該フコース構造類似糖を糖鎖に付加することに成功した。また、培養液に含まれる血清由来のGDP-フコースが細胞内へ取り込まれ、フコース転移酵素の基質となってしまうことが懸念された。今回の結果から、実際に血清含有培地で培養した接着型ΔGMD株では、アラビノース付加型およびガラクトース付加型糖鎖の他にフコシル化糖鎖も存在した(構造類似糖非添加時の約85%量)。血清存在下でもフコース残基の置換は可能であることが証明できたが、より高効率化を目指すため、今後は既に構築している無血清培地に馴化したΔGMD株を利用する。 以上の研究成果と理由から、研究課題の目標達成に向けて本年度も特に問題なく順調に研究は進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現段階で研究計画に変更などの大きな問題は生じていない。最終年度では、まず、本年度と同様に無血清培地に馴化したΔGMD株の培養液中にフコース構造類似糖を添加し、フコースからの置換効率を本年度の結果と比較する。添加する糖の濃度を振り分け、最も置換効率の良い濃度を検証する。浮遊細胞を扱う場合はその培養液量や振とう速度を最適化する。現状で、外部からの高濃度の糖添加による細胞生育速度等への影響は特に見られないが、生存率など細胞の性質についても解析しておく。 また、ΔGMD株を宿主としてモデルIgG抗体発現用ベクターを導入し、当該抗体を分泌生産する。抗体生産株は無血清培地に馴化した浮遊細胞と血清含有培地で育成する接着細胞の両方を準備する。生産した抗体を培養液中より精製し、糖鎖構造を高速液体クロマトグラフィーおよび質量分析器で詳細に解析する。さらに、Fcγ受容体を結合した樹脂をもつカラムを利用して、IgG抗体と受容体との結合力が抗体糖鎖に付加したフコース構造類似糖でどのように影響を受けるのかを解析する。この結合力は抗体の機能に大きく影響を与える抗体依存性細胞傷害活性に寄与するため、重要な試験である。その他、糖置換による抗体のpHと温度に対する安定性、感受性を解析する。
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