研究実績の概要 |
チャイニーズハムスター肺(CHL)細胞にて、フコースの構造類似糖であるD-アラビノースを内在性α1,6-フコース転移酵素(Fut8)を利用して細胞内N型糖鎖に付加することを目標とした。Fut8の供与体基質であるGDP-フコースの存在がGDP-アラビノースと競合することを防ぐため、まずde novo合成経路で機能するGDP-マンノース4,6-デヒドラターゼ(GMD)をゲノム編集技術を用いてノックアウトしたCHL-ΔGMD細胞を構築した。CHL-ΔGMD細胞では野生株と比較してフコース結合型(フコシル化)糖鎖が95%減少した。さらに、血清からのGDP-フコースの混入を抑制するため、無血清培地に馴化した浮遊CHL-ΔGMD細胞を樹立した。 細胞を10 mMのD-アラビノース存在下で14日間培養し、細胞より全可溶性タンパク質を抽出、N型糖鎖構造をHPLCならびに質量分析器で解析した。その結果、アラビノース結合型(アラビノシル化)糖鎖が存在すること、野生株では全アラビノシル化糖鎖量が全フコシル化糖鎖量の約4%であったのに対し、CHL-ΔGMD細胞では約3倍に増加することがわかった。これらの成果は、CHL細胞が外部より添加したD-アラビノースを基質としてサルベージ経路にて糖ヌクレオチドGDP-アラビノースを合成できること、GDP-アラビノースを供与体基質として内在性Fut8でN型糖鎖にアラビノースを転移できることを示す。 次に、ヒトIgG抗体を発現するCHL-ΔGMD細胞を構築した。当該細胞を上記の条件でアラビノース存在下で培養した。培養液から分泌IgGを精製し糖鎖構造を解析したところ、アラビノシル化糖鎖は質量分析器レベルで検出できなかった。糖鎖構造の約80%が高マンノース型という異常な分布であったため、細胞が小胞体ストレス等の負荷を受けていると考え、現在抗体生産細胞を再構中である。
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