研究課題/領域番号 |
21K06088
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研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
田崎 隆史 金沢医科大学, 総合医学研究所, 准教授 (70629815)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ユビキチンリガーゼ / UBR4 / 大腸炎関連大腸がんモデル |
研究実績の概要 |
ユビキチンリガーゼUBR4はタンパク質のユビキチン化を担う翻訳後修飾酵素で、多種多様な生理現象に関わっていることが報告されている。本研究計画では、マウス個体のみならず、UBR4欠損培養細胞を用いて網羅的にUBR4依存性の変動因子を検索することにより、大腸炎関連発がんに関わるUBR4の生理学的機能とその分子機構の解明を目指す。 R3年度は、UBR4依存性大腸炎関連大腸がんモデルマウスの確立と UBR4欠損大腸由来培養細胞の確立を目指した。大腸炎関連発がんモデルマウスは、系統、餌、水、AOM/DSS(製造元、投与量、投与回数)などの様々な要因により、大腸炎の程度や発がん時期が変動する。まず、これまでのプロトコル(10mg/kg BW AOM 1 i.p. injection+2 cycles of 1.5%DSS)を基に、UBR4依存性の大腸炎および大腸がんが再現性良く発症するモデルの確立を目指した。次に、AOM/DSS投与後、長期飼育することによって大腸がんを発生させたところ、UBR4欠損群では対照群と比較して、大腸がんの発生率および個数が増加していた。以上の結果から、UBR4は大腸炎と大腸がん発生において抑制的な役割を持っていることが示唆された。 UBR4欠損HEK293細胞確立に用いたCRISPR/CAS9発現プラスミドベクターをヒト大腸がん由来細胞(HCT116, HT29)に適用した。しかし、UBR4欠損細胞を確立することが出来なかった。そこで、siRNA導入により大腸がん由来細胞で発現しているUBR4タンパク質をノックダウンしたところ、細胞増殖が阻害された。HEK293細胞では増殖阻害がみられないことから、大腸がん由来細胞におけるUBR4は増殖促進する役割を持っていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
大腸炎関連発がんモデルマウスは、系統、餌、水、AOM/DSS(製造元、投与量、投与回数)などの様々な要因により、大腸炎の程度や発がん時期が変動する。これまでのDSS濃度(1.5%)に加えて、DSS濃度1.0%の条件でもUBR4依存性の大腸炎を確認することが出来た。したがってDSS濃度は1.0%または1.5%、あるいはその組合せが本研究に適していることがわかった。次に、AOM/DSS投与後、長期飼育することによって発生する大腸がんを観察したところ、UBR4欠損群では対照群と比較して、大腸がんの発生率および個数が増加していた。以上の事から、UBR4依存性大腸炎関連大腸がんモデルマウスの確立の目標は達成された。なお、申請時計画に含まれていた「腸管上皮特異的Ubr4欠損による遺伝子変動の解析」は今後の研究計画で実施したほうが良いと判断し、次年度計画に変更した。
一方、UBR4欠損大腸由来培養細胞の確立においては予期しない結果が得られた。UBR4を欠損するヒト大腸がん由来細胞(HCT116, HT29)の増殖は阻害されるため、CRISPR/CAS9システムによるUBR4欠損細胞確立が難しいことが予想された。しかし、この結果は大腸がん増殖過程においてはUBR4が促進する役割を持っている可能性を示唆している。新たな抗がん剤のターゲットとなる可能性をあり、siRNA導入によるUBR4ノックダウンによる大腸がん由来細胞の性状変化に関する研究を本研究計画に追加したい。
以上のことから、一部計画変更はあるものの、本研究計画の現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究から、UBR4が初期の大腸炎発症においては抑制的に、後期の大腸がん増殖においては促進する役割を持っている仮説をたてた。そこで、今後は大腸炎発症と大腸がん増殖を軸とした研究を推進する。モデルマウスを用いてUBR4依存性の大腸上皮細胞の遺伝子およびタンパク質変化の解析をすすめると同時に、培養細胞系実験により、大腸がん増殖におけるUBR4の役割の解析を行っていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度計画に含まれていた「腸管上皮特異的Ubr4欠損による遺伝子変動の解析」を次年度実施に変更した。そのため、次年度使用額が生じた。未使用額は、遺伝子変動の解析に用いる計画である。
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