研究実績の概要 |
がん抑制遺伝子(EXT)ファミリーに属するEXT-like 2 (EXTL2)遺伝子は, 硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)の合成を負に調節する. 研究代表者らは, EXTL2によるGAGの生合成調節機構が働かない場合, 炎症に関連した病態が重篤に現れること, 発生過程で神経前駆細胞の増殖が亢進することを見出しており, EXTL2は炎症を誘発する活性や神経前駆細胞の増殖を促す活性をもつGAG鎖の合成を制御すると考えている. 本研究では, EXTL2によるGAGの生合成調節機構の仕組みとその生物学的意義の解明を目指す. 2021年度は, EXTL2の発現制御機構, 及び神経前駆細胞の増殖制御機構について調べた. EXTL2遺伝子の3’非翻訳領域に存在する炎症で誘導され, ヒトとマウスで保存されているマイクロRNA(miRNA) の結合部位が存在することがわかった. この miRNA はマクロファージ系株化細胞で恒常的に発現しており, 炎症反応により, 若干ではあるが有意な発現誘導が見られ, EXTL2 の発現を低下させる役割をもつことがわかった. しかしながら, このmiRNAによる作用は弱く, 炎症にともなう一時的なEXTL2の発現低下には別の機構が働いていると考えられた. 現在, 3’非翻訳領域だけでなく, 5’非翻訳領域やオープンリーディングフレーム領域も対象にして解析を行っている. 抑制性神経細胞の新生時期にEXTL2の発現が一時的に低下すること, EXTL2の欠損により前駆細胞の増殖が亢進することを明らかにしている. 増殖亢進は, EXTL2の欠損によるソニックヘッジホッグ (SHH) シグナルの活性化で起こるが, 増殖に関わるシグナル伝達経路の詳細を明らかにするために, SHH シグナルの下流に位置するキナーゼの活性化状態を調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
炎症反応を誘導すると, EXTL2 の mRNA の発現が顕著に低下するため, 3’非翻訳領域を介した転写後調節がEXTL2の発現制御に関わると仮定したが, 2021年度の解析で炎症に応じた EXTL2 の一過的発現低下に働く miRNA を見出したが, その貢献度は低く, 鍵となる miRNA を見出すことができなかった. 転写後調節は3’非翻訳領域だけでなく, オープンリーディングフレーム領域を介しても起きるという報告があるため, この領域まで拡げて解析している. また, EXTL2の発現制御機構には, 転写調節による可能性もあるため, 5’非翻訳領域をクローニングし, EXTL2の転写活性を測定するためのレポーターベクターを作成し, 解析の準備を整えた.
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今後の研究の推進方策 |
炎症による EXTL2 の発現低下に関わる鍵となる miRNAを見出すことができなかった. miRNAによる3’非翻訳領域を介した転写後制御に絞って解析を進めているが, 対象領域を拡げ, オープンリーディングフレーム領域を介した転写後制御, あるいは5’非翻訳領域を介した転写制御についての解析も行うことにした. 【計画の一部変更】ヒト臨床検体は使用しない予定であったが, EXTL2の発現制御機構とヒト疾患との関連性を示すために, 倫理審査で承認された市販検体を入手する計画である. なお, 実験に先立ち, 臨床研究教育サイト「ICR臨床研究入門(略称:ICRweb)」で「臨床研究の基礎知識講座(旧 臨床研究入門初級編)」を履修した (修了証第 36537 号 令和3年11月22日).
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次年度使用額が生じた理由 |
EXTL2 の発現制御に関わる因子は同定できたが, その貢献度は期待したほど高くなかった. 2021年度は, 3'非翻訳領域による転写後制御に絞って解析していたが, 解析の対象DNA領域を拡げるとともに, 転写制御の可能性も検討することにした. EXTL2 の発現制御に関わる鍵となる候補因子が見つかった時のために, 本年度はできるだけ経費の節約に努めた.
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