研究実績の概要 |
がん抑制遺伝子(EXT)ファミリーに属するEXT-like 2 (EXTL2)遺伝子は, 硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)の合成を負に調節する. 申請者らは, EXTL2によるGAGの生合成調節機構が働かない場合, 炎症に関連した病態が重篤に現れること, 発生過程で神経前駆細胞の増殖が亢進することを見出しており, EXTL2は炎症を誘発する活性や神経前駆細胞の増殖を促す活性をもつGAG鎖の合成を制御すると考えている. 本研究では, EXTL2によるGAGの生合成調節機構の仕組みとその生物学的意義の解明を目指す. 2023年度は、EXTL2の発現制御機構について調べた. EXTL2遺伝子の5’非翻訳領域に結合する転写因子のうち, 炎症に関連するものを検索した. このうち, 炎症に関連する遺伝子やがん関連遺伝子を制御する転写因子CTCFに着目した. マクロファージ系株化細胞をリポ多糖で処理し, CTCF と EXTL2の遺伝子発現が調べたところ, 両遺伝子ともに炎症反応の活性化に伴い低下した. CTCFが EXTL2遺伝子の転写に関与する可能性が示唆された. CTCFの過剰発現は EXTL2遺伝子の発現を上昇させた. 次に, EXTL2遺伝子の5’非翻訳領域をクローニングし, ルシフェラーゼ遺伝子の上流に組み込んだレポーターベクターを構築した. これを用いてレポーターアッセイを行ったところ, 転写領域から-1.9 kbから-3.4 kb のDNA領域がEXTL2遺伝子の転写に関わる可能性が示唆された. また, このDNA領域を組み込んだレポーターベクターは, 発現させたCTCFによりレポーター活性が上昇した. このDNA領域にCTCFが結合し, 炎症刺激により結合が減少するかどうかを CUT-Tag法により調べた. 未刺激では, レポーターアッセイで決めた領域にCTCFの結合が認められ, LPS刺激によりこの結合が減少した. これらの結果から, 炎症反応に伴う CTCF の発現低下がEXTL2遺伝子の発現を低下させる可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
EXTL2遺伝子がCTCFの標的であることを確認するために, CTCF のノックダウンによりEXTL2の発現が低下するかを調べる.また, CTCFがEXTL2の発現制御を介して炎症性糖鎖の合成を制御しているかどうかを確認するために, 糖鎖解析を行った後, これらの結果を論文としてまとめていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
EXTL2遺伝子の制御に関わる候補分子が当たってくるまで, データベースや文献検索などを利用して, できるだけ費用が発生しないよう工夫した. 本年度の研究により, 候補となる転写因子が見つかったため, 最終年ではこれを証明するために経費を使用させていただく.
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