研究課題/領域番号 |
21K06091
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
田母神 淳 松山大学, 薬学部, 准教授 (30580089)
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研究分担者 |
菊川 峰志 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (20281842)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | センサリーロドプシン / レチナール / 光受容タンパク質 / 走光性 / 光情報伝達 / 分子間相互作用 / フォトサイクル |
研究実績の概要 |
高度好塩菌には主に正(誘因)と負(忌避)の2つの走応答を担う光受容体が存在し、それぞれセンサリーロドプシンI(SRI)、II(SRII)と呼ばれる。本研究では、これら2つのSRがそれぞれ逆の応答を司る光受容体として機能するのはなぜか?その要因を明らかにすることを目的に、初年度で試料となる2つのSR分子(Haloarcula vallismortis由来のSRI(HvSRI)およびSRII(HvSRII))を安定に得るためのタンパク質発現系を構築し、それぞれのタンパク質の吸収波長やフォトサイクルといった光化学的性質に関する調査を行った。令和4年度は、2つのSRそれぞれの機能に重要なアミノ酸残基を探索すべく、様々なアミノ酸残基に変異を導入し、その光化学的性質に及ぼす影響について調べた。SRをはじめとする微生物型ロドプシンでは、発色団レチナールの近傍にあり、結合ポケットを形成しているアミノ酸残基の中に重要残基が存在するケースが多いため、それらのアミノ酸残基についてHvSRIとHvSRII間で比較し、両者の間で異なるアミノ酸残基を抽出後、HvSRIIのそれぞれのアミノ酸をHvSRI型に置換した単変異体6種(L17F、T108M、Q105D、N83L、G130S、F134H)を作製した。6つの変異体の内、N83Lのみ極大吸収波長が野生型と比べて大きく(~10 nm)長波長シフトし、HvSRIに近づいたことから、このアミノ酸残基が吸収波長の調節において特に重要であることがわかった。また、この変異体は光反応の速さという観点からも、SRIIのシグナリング中間体として重要だとされているM中間体の崩壊速度が野生型と比べて著しく遅くなることを発見した。したがって、この変異導入が実際に走光性機能の変換を引き起こすかどうかについては興味深いテーマであり、今後検討していきたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度における研究では、2つのSR間でのアミノ酸残基の比較から、特にレチナール結合ポケットを形成するアミノ酸残基に注目して、両者の間で異なるアミノ酸残基を抽出後、HvSRIIにおけるそれらの残基をHvSRI型へと置換するという実験を行い、HvSRIIの性質をHvSRIに近づけるアミノ酸残基の候補の1つを見つけることができた。しかし、当初の計画にあったその逆のパターンであるHvSRIをHvSRII型へと置換し、その機能に及ぼす影響について検討するという実験は実施できておらず、次年度の課題として残ったため。 また、令和4年度では、HvSRIおよびHvSRIIを介した高度好塩菌の光応答の観察を進めるべく、光照射後のHvSRIおよびHvSRIIのそれぞれからシグナルを受けて、そのシグナルを下流へと伝えるのに重要な共役タンパク質(トランスデューサータンパク質HvHtrIおよびHvHtrII)をコードする遺伝子のクローニングとHvSRI、HvSRIIそれぞれとの共発現系の構築に着手していく予定であったが、未だ発現系の完成には至っていないため。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、前年度でやり残してしまったHvSRI型→HvSRII型へのアミノ酸残基置換体作製とそれらの変異体の光化学的性質に及ぼす影響について調べたい。また、高度好塩菌におけるHvSRI-HvHtrI複合体およびHvSRII-HvHtrII複合体の発現系構築に向けて、2種類のトランスデューサータンパク質(HvHtrIおよびHvHtrII)遺伝子のクローニングおよび発現ベクターへの組み込みにも早急に取り組みたい。また、最終年度に計画していたHvSRI型→HvSRII型およびHvSRII型→HvSRI型への相互変換で、走光性機能の相互変換(正⇔負)が可能かどうかの検討も進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究におけるHvSRI-HvHtrI複合体およびHvSRII-HvHtrII複合体間でのシグナル伝達の観察のために不可欠な落射顕微鏡を用いた走光性解析装置だが、すでに最初の装置購入および測定系の構築からかなりの時間が経過しており、落射顕微鏡の光源部分をはじめとする様々な部位に消耗・劣化が見られるようになってきた。そのため、本解析装置システムを用いた実験が安定かつ信頼性をもって今後も行えるようにするために、落射顕微鏡を含めた装置部品一式を新たに購入する必要が出てきており、その費用に充てるために、前年度の計上予算の内の一部を次年度に繰り越して使用したいと考えている。
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