研究実績の概要 |
本研究では, タンパク質の機能発現に関係する構造変化を効率的に抽出する計算手法を開発する. これらの構造変化は, 従来の分子動力学計算(MD)で追跡できる時間スケールよりも長時間スケールにおいて誘起される「レアイベント」であり, 抽出することが難しい. 研究代表者はこの問題に対し, 遷移確率の高い分子構造からMDをリスタートすることで効率的にレアイベントを抽出する計算手法(PaCS-MD: Parallel Cascade Selection MD)を開発した. PaCS-MDで重要となるのは, リスタートすべき遷移確率の高い初期構造を適切に選定することである. 初年度は, PaCS-MDを効率的なレアイベントサンプリング手法に発展させるため, 機械学習の一種である異常検知を導入し, 重要な初期構造の選定を目指した. 具体的には, MDが生成するタンパク質構造群から遷移確率の高い分子構造を異常検知に基づき検出するad-PaCS-MDを開発した. 本手法は, あらかじめ安定構造からスタートしたMDが生成するタンパク質構造の時系列データ(トラジェクトリ)を学習し, 異常検知器を構築する. 更に, 検知器を利用して新規にMDを実行した際に生成されるトラジェクトリを異常検知し, これまでに出現したことのない分子構造を選び出す. 異常構造(出現確率が低い分子構造)は, 周囲に存在する準安定構造に遷移する確率が高いとみなすことができるため, ad-PaCS-MDの構造探索の初期構造に利用できる. ad-PaCS-MDの探索効率の検証とし, T4リゾチームおよびマルトース結合タンパク質のOpen-Closed構造遷移が抽出できるか試したところ, 従来のPaCS-MDよりもはるかに効率的に遷移経路を探索することができた.
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