研究課題/領域番号 |
21K06096
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今井 洋 大阪大学, 理学研究科, 助教 (60391869)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ダイニン / 分子モーター / 微小管 / 細胞骨格 / クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 |
研究実績の概要 |
細胞質ダイニンは、ATPの化学エネルギーを使い、細胞骨格である微小管に沿って、細胞内物質を輸送する主要なタンパク質である。例えば、細胞膜周辺から核に向けて、ミトコンドリア、mRNA、アミロイドβタンパク質などを運ぶ。ヒトのダイニンの突然変異は、ヒトの神経変性疾患と強く関連することが報告されている。 細胞質ダイニンモータードメイン(380 kDa)の近原子分解能の構造は、X線結晶構造解析法とクライオ電子顕微鏡法により報告されている。そして、細胞質ダイニンモータードメインの一部である微小管結合部位(16.5 kDa)が微小管と結合した構造も報告されている。しかし、生理学的に重要な微小管に結合した細胞質ダイニンの全体構造は、低分解能の構造報告例はあるが、近原子分解能でないとわからないアミノ酸側鎖レベルでは未解明である。そこで、本研究では、細胞質ダイニンが微小管に結合した全体構造を近原子分解能で解明することを目的とする。 2021年度には、クライオ電子顕微鏡法による報告例のない細胞性粘菌の細胞質ダイニンモータードメイン(380 kDa)の構造を、クライオ電子顕微鏡法で得ることからスタートした。細胞性粘菌のシステムを利用することにした理由は、X線結晶構造解析の報告(Kon et al., 2012 Nature)があるため、クライオ電子顕微鏡法によっても成功する可能性が高いと考えたためである。細胞性粘菌のシステムを利用して、細胞質ダイニンのモータードメインを発現・精製し、クライオ電子顕微鏡グリッドの凍結条件の検討を行った。そして、大阪大学・蛋白質研究所のクライオ電子顕微鏡(Titan Krios)で、撮影した。得られた画像を単粒子解析法で解析した結果、近原子分解能の構造を得た。 今後、微小管と結合した細胞質ダイニンを、クライオ電子顕微鏡により、撮影するための条件検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)の細胞質ダイニンモータードメインのX線結晶構造は報告があるが、クライオ電子顕微鏡法での報告はない。そこで、2021年度には、まずはじめに、細胞性粘菌の細胞質ダイニンモータードメイン(380 kDa)のクライオ電子顕微鏡構造を得ることを目標とした。細胞性粘菌を利用して、細胞質ダイニンのモータードメイン(380 kDa)を発現・精製した。得られた細胞質ダイニンのクライオ電子顕微鏡用のグリッドの凍結条件を検討した結果、質の良いグリッドが得られた。撮影は、大阪大学・蛋白質研究所のK3電子直接検出器、エナジーフィルター、及び、Csコレクターを搭載したクライオ電子顕微鏡(Titan Krios)で行った。得られた画像を 、単粒子解析法で解析した結果、近原子分解能の構造を得た。細胞性粘菌の細胞質ダイニンのクライオ電子顕微鏡構造として、初めての構造である。クライオ電子顕微鏡構造では、X線結晶構造では未解明であった溶液中の分子揺らぎに関する構造情報が得られた。今後、論文を作成する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度からは、2021年度までに得た構造を報告するために、論文の執筆を行う計画である。また、細胞質ダイニンモータードメインに微小管を結合させた構造を解明するために、クライオ電子顕微鏡のグリッドの凍結条件の検討を開始する予定である。グリッドの凍結条件が決まり次第、クライオ電子顕微鏡で撮影し、単粒子解析法により構造解析する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響のため、計画していた出張費用、及び、物品費がかからなかった。
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