大腸菌は小さな細胞の中に,高等生物と同じようなセンシング能,情報処理能,運動能を有しているが,単純な大腸菌ですら,細胞の応答を細胞内でのタンパク 質動態(局在,活性,分子数,相互作用)として理解するには至っていない.本研究は1細胞内FRETや走化性タンパク質の細胞内動態と共に,最終出力のべん毛 モーター回転を同時計測することで,大腸菌1細胞における情報伝達を,細胞内のタンパク質動態と細胞応答の相関関係を直接的に理解し,情報伝達の基本原理 を細胞内のタンパク質動態レベルで明らかにすることを目的としている. R5年度の研究では,昨年度に引き続き,(1)FRETによる細胞内情報伝達タンパク 質(CheYp)濃度とべん毛モーターの同時計測,(2)走化性タンパク質CheBの細胞内動態とのべん毛モーターの同時計測により,走化性応答時における 細胞内タンパク質の動態と実際の細胞応答の相関関係を明らかにすべく計測を続けた.(1)については細胞内の情報伝達分子濃度と実際の細胞応答の相関関係が明らかになりつつあり,また受容体の種類や混成受容体によって応答が変化するなどの新たな知見も得られつつある.また(2)については,CheBの受容体への結合(局在)が,受容体活性を反映すること,またその局在変化(細胞内タンパク質の動態)と実際の細胞応答の相関関係を定量解析することができた.この研究成果は論文として国際学術雑誌へ投稿し,現在査読中である.また(1)の成果についても,国際学術雑誌へ論文として発表するために準備を行っている.
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