研究課題/領域番号 |
21K06101
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
鞆 達也 東京理科大学, 教養教育研究院神楽坂キャンパス教養部, 教授 (60300886)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | クロロフィル / 光化学系I / シアノバクテリア |
研究実績の概要 |
光合成光化学反応は太陽光エネルギーを還元力に変換する反応で有る。しかし、太陽光は全体の量としては莫大であるものの密度が低いため光合成は集光性色素複合体を進化させてきた。光化学系Iはアンテナクロロフィルを約100分子結合して希薄な太陽光の濃縮を行っている。この100分子のクロロフィルのうち、1割弱は初期電子供与体よりも長波長側に吸収帯をもつクロロフィルでred-クロロフィルとも呼ばれている。エネルギー移動的に不利なこれらのクロロフィルノ意義を明らかにするため、他の一般的なシアノバクテリアと異なる特徴的なred-クロロフィルをもつシアノバクテリアA. platensisを材料として実験を行った。生化学的な手法を検討した結果、光化学系Iの単量体、二量体、三量体の単離精製に成功した。特徴的なred-クロロフィルの蛍光帯は会合度の増加と正の相関があった。また、三量体のクロロフィルを減らす生化学的方法や三量体を圧力を供して蛍光を測定することにより、red-クロロフィルの蛍光帯に明瞭な変化を観測することが出来た。現在、このクロロフィルの複合体内での位置を決定すべく研究を進めている。 また、既知のクロロフィルの中でもっとも低エネルギー側に吸収極大をもつクロロフィルfを結合した光化学系Iに関しても解析を進めている。クロロフィルfの量は光化学系I全体の約10%であるが、これまでの解析は三量体を用いたものであった。本研究で単離精製方法を検討することにより、単量体の単離に成功した。単量体の蛍光スペクトルを測定すると、クロロフィルf由来と考えられる長波長側の特徴的な蛍光帯が消失していた。現在、A. platensisで用いた方法を参考にして、特徴的な蛍光帯をもつクロロフィルの構造機能を解析している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特徴的なred-クロロフィルをもつシアノバクテリアシより、会合度の異なる光化学系I標品の単離精製に成功した。とりわけ、二量体の光化学系Iに関しての報告はこれまでほとんど無かった。この標品をもちいて励起エネルギー移動の解析を行ったところ、吸収帯の重なりと近接がエネルギー勾配に逆らった励起得エネルギー移動を実現する知見を得ている。また、本標品を用いたアップヒル型エネルギー利用系の開発にも着手しており、red-クロロフィルの局在部位を明らかにすることは光合成機構の解明に大きなインパクトを与えることが期待できる。また、クロロフィルfはとりわけ低いエネルギーを利用できることから、この系を用いた低エネルギー光有効利用の基盤技術の獲得が期待できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今回単離に成功したA. platensis光化学系Iの二量体やクロロフィルfを結合した光化学系I単量体を用いた時間分解分光法や振動分光法等の物理化学的測定を進めて、原子・電子レベルの解析を進める。また、光化学系標品を基盤に結合させる系を開発し、光変換によるエネルギー創生についても、本標品を用いて進めて行く。今回着目しているクロロフィルの吸収帯は他の生物種と違いがあることから、これを摂動としてとらえて普遍的な光合成のエネルギー移動機構を明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に単離標品の熱発光装置による酸化還元電位測定の計画を立てていたが、装置の故障により、細かい実験条件の検討ができず必要物品の購入が間に合わなかった。また、大型冷却遠心機の軸部分の不具合が生じ、修理部品が国内に枯渇してたため、タンパク質濃縮で予定していた消耗品が消費できなくなった。それらに加えて、スイング型の冷却遠心機を発注していたが世界的な半導体不足により当該年度に納入できないことが2022年になってから確定し、キャンセルを行った。現在、これらの課題は解決に向かっているので2022年度に使用予定である。
|