研究課題/領域番号 |
21K06108
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
安田 賢司 千葉大学, 大学院理学研究院, 特任准教授 (40792081)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | V1-atpase / 水和エントロピー / 分子モーター |
研究実績の概要 |
ATP駆動タンパク質はATPの加水分解により得られる化学エネルギーを力学エネルギーに変換することで機能すると考えられている。一方で、ATP駆動分子モーターの F型ATPaseの回転メカニズムに関して「パッキングの不均一性と水のエントロピー効果により回転が引き起こされる」という従来とは異なる描像が先行研究により提案されている。そこで本研究では様々なヌクレオチド結合状態の立体構造が得られているV1-ATPaseに対して水和エントロピーに着目した熱力学量の解析を行うことにより、上記の描像で不明確であった部分を明らかにし、回転メカニズムの描像確立に取り組む。以下に当該年度の研究成果を記載する。 一方向回転におけるDF軸の役割---DF軸ありとなしの構造を比較した結果、V1-atpaseに関しては、DF軸の存在がA3B3サブユニットのパッキングの不均一性に重要な役割を果たしていることが判明した。これはα3β3のみでも不均一性が見られたF1-atpaseとは異なる特徴であった。 一方向回転の描像の確立---A3B3DFにおいて、3つのABサブユニットペアのパッキングは不均一であり、その状態において水のエントロピーが最大化されている。しかし、ATPの結合、ATPの加水分解、ADP及びPiの離脱は自由エネルギーの低下をもたらし自発的に起こる現象であるため、これが水のエントロピーを最大化したA3B3DF構造に摂動をかけ、構造の再構築を引き起こす。ATPが加水分解されると、そのABペアのパッキングは緩くなる。そのエントロピー損失を補うためにATPの結合していないABサブユニットのパッキングが密になる。このように構造変化するA3B3とのパッキングを最大にするようにDFサブユニットは一方向回転する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、軸の重要性を示し、昨年度の研究成果と合わせて、一方向回転の描像を確立した。本研究成果は、論文として投稿中である。このため予定通り順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に従って、研究項目を継続する。水和エントロピー以外のエネルギー項を取り入れることで、確立した描像をより高精細化する。また、ATP加水分解直後を模擬していると考えられるAlF4が結合した構造の解析を進め、回転途中でどのような構造変化が起こっているのかを突き止める。必要に応じてMDシミュレーションを行うことで構造揺らぎを考慮できる様にする。
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