研究課題
本研究では、ATPの加水分解を駆動力とするタンパク質の回転分子モーターに関して、化学エネルギーを機械仕事に変換するという従来の化学-機械カップリングの概念に代わる新たな理論の構築を目的とした。近年、化学-機械カップリングに矛盾する実験結果が報告されている。その解決のために、V1-ATPase(A3B3DF複合体)の統計力学的解析を行なった。本解析は、系がタンパク質だけでなくそれが浸されている水溶液も含むと考え、水分子の並進移動に由来するエントロピーの重要性に着目する点に大きな特徴がある。また、最近提案されたF1-ATPase(α3β3γ複合体)の回転機構の描像について検証し、F1-ATPaseとV1-ATPaseの共通点と相違点を解明した。V1-ATPaseの触媒滞留状態の構造は、二つのAサブユニットにATPが結合し、DFサブユニットが組み込まれることによって形成される。この構造は、タンパク質サブユニット及びタンパク質界面の原子の充填具合において非均一性を示している。ATP加水分解サイクルは、タンパク質複合体へのATPの結合、ATPのADPとPiへの加水分解、ADPとPiの解離から成り立っており、各サイクルで3つのAまたはβサブユニットに結合するヌクレオチドとA3B3またはα3β3複合体の構造が順次変化する。この変化が中央軸の一方向の回転を引き起こし、A3B3DFまたはα3β3γ複合体の構造が安定化される。この過程の中で、水のエントロピーが最大化されるように保持される。この回転を駆動するトルクは化学的自由エネルギーの入力なしに水によって生成される。ATPは、このトルク生成のためのトリガーとして不可欠であり、ATP加水分解または合成反応は、水のエントロピー効果を通じて中央軸の正方向または逆方向の回転と密接に結びついていることが明らかとなった。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 1件)
Biochemical and Biophysical Research Communications
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