研究課題/領域番号 |
21K06109
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
金井 隆太 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (50598472)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Na+,K+-ATPase / 能動輸送 / K+選択性 / X線結晶構造解析 / 電子顕微鏡単粒子解析 |
研究実績の概要 |
Na+ポンプ(Na+,K+-ATPase)によるK+輸送機構、すなわち2個のK+がどのように選択的に結合するとともに脱燐酸化反応が進行し、細胞外ゲートが閉じて、細胞内ゲートが開くのか、を原子レベルで明らかにすることを目的としている。 今年度は既に得られていたK+結合前の燐酸化状態(E2P状態)の結晶にK+のcongenerであるRb+を様々な濃度で添加して回折測定を行い、Rb結合過程を解析した。その結果、1個のRbを結合した結晶構造を得ることができた。また、Rb結合はE2P状態を安定化する強心配糖体の種類によって変わりうることが分かった。 生化学的特徴が異なる2つのE2P、すなわち、ATPを用いて正反応から得たE2P(E2P(ATP))と無機燐酸Piを用いて逆反応から得たE2P(E2P(Pi))がある。E2P(Pi)については結晶解析に成功していたが、E2P(ATP)については結晶化できていなかった。そこで、今年度はE2P(ATP)単独をはじめ、強心配糖体を結合したE2P(ATP)などのクライオ電顕単粒子解析を行った。その結果、近原子分解能でそれらの構造を決定し、E2P(ATP)とE2P(Pi)の生化学的特徴の違いを原子レベルで明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進んでいる。正反応から得たE2P状態についてはクライオ電顕による解析が可能になったことで、予想以上に進展し、論文にまとめることができた(R. Kanai, et al. (2022) PNAS, 119(15): e2123226119)。一方、2個のK結合過程についてはやや苦戦している。逆反応から得たE2P状態でRbを1個結合した構造はX線結晶解析、クライオ電顕解析より得られたが、2個結合した状態は得られていない。その理由として逆反応から得たE2P状態ではMgが1個結合しているのだが、その結合したMgが2個目のK結合を阻害しているらしいことが考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
比較的に容易と思われる、K+が結合して脱燐酸化した状態E2Kと細胞内ゲートが開く状態E2ATPの構造解析を急ぐ。 一方、2個のKが結合したE2P状態(E2P.2K)についてはMg濃度が2個目のK結合に大きな影響を与えることが分かってきたので、安定したE2P.2K状態の再現に必要な溶液組成を生化学的に明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
クライオ電顕のための試料調製にて当初、ナノディスク化したものを想定し、そのための費用を計上していたが、ナノディスク化せずとも十分脂質二重膜を保持した粒子像を得ることができ、想定していたよりも費用はかからなかった。一方で、K+結合過程の構造解析は予想外に難しいことが分かり、その解決に向けて次年度では予定よりも大幅に生化学実験を追加して実施する。
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