研究実績の概要 |
本研究はNa+ポンプ(Na+,K+-ATPase)によるK+輸送機構、すなわちNa+ポンプは2個のK+をどのように選択的に結合するとともに脱燐酸化反応を引き起こし、細胞外ゲートを閉じて、細胞内ゲートを開くのか、を原子レベルで明らかにすることを目的としている。 今年度はK+輸送機構の理解において最重要であり、構造未決定であった、2個のK+を結合した燐酸化状態(E2P.2K)の構造決定に取り組んだ。その結果、クライオ電顕解析により高分解能で構造決定することに成功した。驚くことに得られた構造は脱燐酸化後の状態(E2.P.2K)の構造に近いものであった。既にK+結合前の燐酸化状態(E2P)とE2.P.2Kの構造は明らかになっており、その両者の間には細胞外側ゲートを閉じるために大きな構造変化が生じていることが分かっていた。その構造変化の大部分は脱燐酸化によってもたらされる、すなわち、燐酸化状態にある高エネルギーはその大きな構造変化を引き起こすことに利用されると考えていたが、今回の結果は全くそれを覆すものであった。構造変化の大部分はK+結合そのものによって引き起こされていたのである。 全ての期間を通じて、本研究は燐酸化状態E2PからK+を結合して脱燐酸化し、ATPを結合してK+を解離するK+輸送に関わるほぼ全ての中間状態を原子レベルで詳細に明らかにすることができた。その成果の一部は論文1報にまとめて報告している (R. Kanai, et al. (2023) FEBS Lett., 597(15):1957)。
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