研究課題/領域番号 |
21K06113
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
森 義治 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任准教授 (90646928)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | タンパク質合成 / リボソーム / EF-Tu / RNA / 分子動力学 / マルチスケールシミュレーション / 粗視化シミュレーション / メタダイナミクス |
研究実績の概要 |
細胞内には類似した分子が多数存在する。このような環境の中で、例えばタンパク質を合成するリボソームが正しいtRNA分子をどのように選択して結合させるのかは十分に理解されていない。本研究課題は平衡論・速度論的な観点でこのような分子認識機構を解明することを目的としている。本研究課題においては会合・解離速度定数のような速度論パラメータを三つの計算スケールに分けて計算する。原子レベルでは分子動力学、一個の分子全体はブラウン運動、拡散過程は拡散方程式の解をそれぞれ利用することにより、広いスケールにおよぶ現象を扱うことを可能にする。 第三年目においてはリボソームにおける翻訳の初期過程を理解するために、リボソーム70S複合体における開始tRNAとEF-Tuの解離過程を研究対象とした。上述したスケールにおける原子レベルでの分子動力学計算をその手段として利用した。一方でリボソーム全体を原子レベルで分子動力学シミュレーションにより実行することは計算時間の点から難しい。そのため本課題においては粗視化モデルを活用することにより、リボソームとtRNAの結合・解離過程を理解するためのシミュレーションを実行した。具体的手法としてはメタダイナミクスを用いた粗視化シミュレーションにより、リボソームからのtRNA・EF-Tu複合体の解離過程における分子機構を明らかにすることを試みた。 以上の解析から、リボソームからtRNA・EF-Tu複合体が解離する過程においては、様々な障壁が存在しうることを見出した。このような結果からこの複合体がリボソームに会合するためには適切な構造変化や分子の接近が必要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
三年目の研究計画として次の事項を行う予定であった。つまり関連する分子群の有効拡散係数の決定等を行うこと、およびそれらのパラメータを利用し混雑環境におけるリボソームとtRNAの結合過程の理解をすることである。 一つ目の計画については、混雑環境におけるリボソームやtRNAのシミュレーションが必要となるが、これらの計算はテスト計算段階である。このような系におけるシミュレーションはそのまま実行することは難しいため、有効的な混雑環境を構築し、その条件下でリボソームやtRNAなどの構成分子のシミュレーションを実行することを試みている。このような条件の設定やシミュレーション設定の考察を行っている段階であり、有効拡散係数等の決定はそれほど進んでいない状況である。 二つ目の計画であるリボソーム複合体の計算においては、立体構造からそれぞれの分子を抽出し,全原子モデルから粗視化モデルを構築している。さらにメタダイナミクスを利用した粗視化分子シミュレーションを実行し、リボソームとtRNAの系についての解離過程の反応経路を特定したところである。
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今後の研究の推進方策 |
第三年目での未実行の計画を継続して行っていく予定である。まず混雑環境におけるリボソーム等の分子について有効拡散係数等を決定することである。このようなことを実現することにより、マルチスケールのシミュレーションにおいて利用可能なパラメータを得ることが可能となるからである。またリボソーム70S複合体におけるtRNA・EF-Tu複合体の解離過程に関する自由エネルギー計算も行っていく予定である。本解析を実行するため、推定された反応経路上でのアンブレラサンプリングシミュレーションを実行する予定である。 さらに次年度では当初の目的である、リボソームにおけるタンパク質合成において異なるtRNAをどのように選択的に結合させ高精度の翻訳を行っているのか、という問いに答えるための計算系を構築しシミュレーションを実行する予定である。伸長過程におけるtRNAの結合・解離過程の解析を実行すること、および伸長過程を構成する分子群(リボソーム、tRNA、EF-Tu)の混雑環境における有効拡散係数等を決定し、マルチスケールシミュレーションを実行することができるパラメータ群を決定することを目的とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間の当初から現在までの間に新型コロナウイルス感染症の影響により予定していたいくつかの学会がオンライン化され、該当する出張についての旅費を計上することがなかったことが次年度使用額が生じた主たる理由である。また本年度途中で研究代表者の研究機関の異動が生じたため、計画通りの研究の実施をできなかったことも理由に挙げられる。 次年度においては、本報告書作成時においては現地開催の学会開催が基本となる予定のため、旅費については当初の計画通りに実施する予定である。また、これまでに得られた成果を論文としてまとめ、オープンアクセス化などにすることによる費用として計上することを計画している。
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