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2022 年度 実施状況報告書

複数の溶液計測データの統合解析による蛋白質アンサンブル構造決定

研究課題

研究課題/領域番号 21K06114
研究機関東京都立大学

研究代表者

池谷 鉄兵  東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (30457840)

研究期間 (年度) 2021-04-01 – 2024-03-31
キーワードmulti-state立体構造計算 / タンパク質 / 溶液NMR / in-cell NMR / 構造アンサンブル
研究実績の概要

本研究は,現在開発を進めているmulti-state蛋白質立体構造計算法をマルチドメイン蛋白質に応用し,ドメイン配向のアンサンブル構造を可視化することを1つの目標としている.Multi-state蛋白質立体構造計算法は,従来の可能な限り収束の良い一位の構造を決定することを目指す手法とは異なり,複数状態を仮定して構造解析を行うことで,多形構造をとる蛋白質の個々の状態の構造を同時に決定できる手法である.一昨年度に,この手法を様々なNMRデータにも適用できるようなプログラムの拡張に成功している.モデル試料として,GRB2, FixJ,直鎖ダイユビキチンを用いている.本年度は,multi-state構造計算をGRB2蛋白質へ応用し,GRB2の溶液中でのドメイン配向決定に成功した.これをもとに,GRB2試料の常磁性緩和効果(PRE)と残余双極子相互作用(RDC)を測定し,これらのデータを用いて構造決定を行った.X線小角散乱(SAXS)と分子動力学計算(MD)も行い,これらのデータを統合的に解析することで,より信頼性の高いアンサンブル構造を得ることに成功した.FixJについても,同様な構造解析を進めており,PREと疑似コンタクトシフト(PCS)の測定に成功している.直鎖ダイユビキチンについては,希薄溶液下でPCS,PREの測定,解析とmulti-state構造計算によるアンサンブル構造解析にも成功した.また,直鎖ダイユビキチンをヒト培養細胞に導入し,細胞内でのin-cell NMR測定とPCSの測定にも成功した.昨年度構造解析に成功した,KRasとRGL2の相互作用解析の成果は,科学専門誌に投稿し,現在審査中に段階にある.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

GRB2については,アミノ酸選択標識試料などを用いることでNMR共鳴信号の帰属の追加・修正を行うことができた.この帰属データを元に,PRE, RDC, NOE,T1/T2緩和の測定データを再解析し,より質の高い構造情報の取得に成功した.これらのデータを用いて構造解析を行ったところ,GRB2の3つのドメイン(nSH3, SH2, cSH3)のうち,nSH3とSH2とは強くつながって一体化したような運動を持っているのに対し,cSH3は独立して大きなダイナミクスを持つことが分かった.この結果は,SAXS測定とSAXSデータを基にしたアンサンブル構造解析,およびMDシミュレーションからも検証した.
直鎖ダイユビキチンについては,特に,in-cell NMR測定で大きく進展した.これまでは標識タンパク質の細胞内への導入には,電気穿孔法を用いていたが,今年度はSLO法を採用した.この結果,直鎖ダイユビキチンの細胞内NMRシグナルの観測と,細胞内でのPCS測定に成功した.一方で,得られたPCS値は主にドメイン内のシグナルであり,ドメイン間のPCS観測には至らなかった.今後は,ドメイン間のPCS観測に向けた試料調製を行い,細胞内での直鎖ダイユビキチンのドメイン配向決定を進める.FixJについては,PREデータの解析を進めている.
GRB2とSOS1のプロリンモチーフ(PRM)領域との相互作用と,液液相分離(LLPS)の研究では,GRB2とSOS1の相互作用をNMRとITCで測定し,多価相互作用における結合親和性を解析した.GRB2には2カ所,SOS1には10カ所の結合部位があると予想されていたが,解析の結果,それらの結合は一様ではなく,かなり差があることが分かった.今後は,この結合親和性の差がGRB2とSOS1の相互作用や機能にどのような影響を与えているか,詳細に解析を進めていく.

今後の研究の推進方策

GRB2蛋白質については,NMR, SAXS, MDを用いて,信頼性の高いアンサンブル構造決定に成功した.本成果については,現在,学術雑誌への投稿準備を進めている.その他のマルチドメイン蛋白質 FixJや直鎖ダイユビキチンについても,同様な構造解析を進めて,他のタンパク質についても希薄溶液中でのドメイン配向やアンサンブル構造の決定を進める.直鎖ダイユビキチンのプロジェクトでは,希薄溶液中でのアンサンブル構造解析に加えて,細胞内でのドメイン配向決定が到達目標の1つであるため,今後は細胞内でのPCS測定の条件検討を進める.すでにドメイン内の細胞内PCSの測定には成功しているが,感度の問題からドメイン間のPCSデータが得られていない.この対策として,感度の高い重水素化とメチル基選択標識を施した試料を調製し,メチル基のNMR信号を観測することで,問題を解決する.
FixJについては,システイン変異を導入すると蛋白質が不安定化する傾向が見られたため,さらに別の変異部位の検討とシステイン変異を必要としないRDCなどの測定を行い,ドメイン配向に関する構造情報を増やしていく.
新規プログラム開発のプロジェクトでは,ベイズ推定を用いた立体構造計算法と,multi-state立体構造計算法を統合する手法に取り組んでいる.現在,CYANAプログラムへの実装を進めており,今年度中に本機能の実装とモデル試料を用いた性能評価を行う予定である.

次年度使用額が生じた理由

コロナ禍が続いたことにより,当初予定より,海外出張がなくなり当初予定より,旅費の使用が少なくなった.また,東京都立大学の火災により,昨年度に引き続き,年度当初の実験が一部十分に行えなかったため,使用した実験試薬の量も当初見積もりより少なかった.繰り越した予算は,次年度の実験試薬等の消耗品の購入に充てる予定である.

  • 研究成果

    (23件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (19件) (うち国際学会 1件)

  • [国際共同研究] スイス連邦工科大学(スイス)

    • 国名
      スイス
    • 外国機関名
      スイス連邦工科大学
  • [国際共同研究] レスター大学(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      レスター大学
  • [雑誌論文] Structural and biochemical insights into heterotetramer formation of oncogenic K-Ras4BG12V and Rgl2, a RalA/B activator2023

    • 著者名/発表者名
      02.Tariq, M., Ikeya, T., Togashi, N., Fairall, L., Bueno-Alejo, C., Kamei, S., Romartinez-Alonso, B., Campillo, M.A.M., Hudson, A. J., Ito, Y., Schwabe, J.W.R., Dominguez, C. & Tanaka, K.
    • 雑誌名

      bioRxiv

      巻: 1 ページ: 1-56

    • DOI

      10.1101/2022.10.10.511529

    • オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Insight into the C-terminal SH3 domain mediated binding of Drosophila Drk to Sos and Dos2022

    • 著者名/発表者名
      Sayeesh P.M., Ikeya, T., Sugasawa, H., Watanabe, R., Mishima, M., Inomata, K., & Ito, Y.
    • 雑誌名

      Biochem. Biophys. Res. Commun.

      巻: 625 ページ: 87-93

    • DOI

      10.1016/j.bbrc.2022.08.007

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] NMR studies of a Drosophila adapter protein, Drk2022

    • 著者名/発表者名
      Sayeesh, PM, T. Ikeya, H. Sugasawa, R. Watanabe and Y. Ito
    • 学会等名
      第1回生命金属科学シンポジウム
  • [学会発表] NMR studies of a Drosophila adapter protein, Drk2022

    • 著者名/発表者名
      Sayeesh, PM, T. Ikeya, H. Sugasawa, R. Watanabe and Y. Ito
    • 学会等名
      第22回日本蛋白質科学会年会
  • [学会発表] NMR解析を用いた解糖系酵素PGKによる解糖流量調節機構の解明2022

    • 著者名/発表者名
      八木 宏昌, 葛西 卓磨, Elisa Rioual, 池谷 鉄兵, 木川 隆則
    • 学会等名
      第74回日本生物工学会大会
  • [学会発表] バイオミネラルタンパク質のlow complexity regionの構造・機能解析2022

    • 著者名/発表者名
      二川 慶,森岡 太一,伊藤隆,池谷 鉄兵,降旗 一夫,渡辺 裕之,永田 宏次,鈴木 道生
    • 学会等名
      メタルバイオサイエンス研究会2022
  • [学会発表] In-cell NMRによるlinear diubiquitinのin-situ立体構造解析2022

    • 著者名/発表者名
      屋部 祥大,田岸 亮馬,鴨志田 一,美川 務,猪股 晃介,池谷 鉄兵,伊藤 隆
    • 学会等名
      第61回NMR討論会
  • [学会発表] In-cell NMR によるKeap1/Nrf2系の研究2022

    • 著者名/発表者名
      豊田 芽生,猪股 晃介,末広 志織,島 海翔,池谷 鉄兵,鈴木 隆史,山本 雅之,伊藤 隆
    • 学会等名
      第61回NMR討論会
  • [学会発表] 常磁性 NMR を用いた根粒菌マルチドメイン蛋白質 ixJの立体構造解析2022

    • 著者名/発表者名
      大久保 里佳,池谷 鉄兵,渡邉 吏輝,菱倉 直樹,三島 正規,猪股 晃介,小手石 泰康,澤井 仁美,城 宣嗣,伊藤 隆
    • 学会等名
      第61回NMR討論会
  • [学会発表] マルチドメイン蛋白質GRB2とSOS1-PRM領域の相互作用解析2022

    • 著者名/発表者名
      館野 桂太,菅澤 はるか,安藤 考史,田端 真彩子,美川 務,猪股 晃介,甲斐荘 正恒,三島 正規,杉田 有治,池谷 鉄兵,伊藤 隆
    • 学会等名
      第61回NMR討論会
  • [学会発表] 常磁性NMRを用いたマルチドメイン蛋白質GRB2の立体構造解析2022

    • 著者名/発表者名
      安藤 考史,菅澤 はるか,館野 桂太,田端 真彩子,美川 務,宮野入 洋平,川端 庸平,Hisham Dokainish,Weitong Ren,大出 真央,寺内 勉,猪股 晃介,三島 正規,甲斐荘 正恒,杉田 有治,池谷 鉄兵,伊藤 隆
    • 学会等名
      第61回NMR討論会
  • [学会発表] GMPPNP結合型K-RasG12VとRgl2RBDの相互作用解析2022

    • 著者名/発表者名
      富樫 直之,宮田 裕貴,亀井 駿,菅澤 はるか,美川 務,猪股 晃介,田仲 加代子,伊藤 隆,池谷 鉄兵
    • 学会等名
      第61回NMR討論会
  • [学会発表] NMR 解析を用いた解糖系酵素 PGK の環境適応的活性制御による解糖系調節機構2022

    • 著者名/発表者名
      八木 宏昌, 葛西 卓磨, Elisa Rioual, 池谷 鉄兵, 木川 隆則
    • 学会等名
      第61回NMR討論会
  • [学会発表] アコヤガイ貝殻内タンパク質の low complexity region の構造、機能解析2022

    • 著者名/発表者名
      二川 慶,森岡 太一,伊藤隆,池谷 鉄兵,降旗 一夫,渡辺 裕之,永田 宏次,鈴木 道生
    • 学会等名
      第17回バイオミネラリゼーションワークショップ
  • [学会発表] An in-cell NMR study of the Keap1-Nrf2 system2022

    • 著者名/発表者名
      豊田 芽生,猪股 晃介,末広 志織,島 海翔,池谷 鉄兵,鈴木 隆史,山本 雅之,伊藤 隆
    • 学会等名
      バイオカンファレンス2022
  • [学会発表] A paramagnetic NMR study of a rhizobial multi-domain protein, FixJ2022

    • 著者名/発表者名
      大久保 里佳,池谷 鉄兵,渡邉 吏輝,菱倉 直樹,三島 正規,猪股 晃介,小手石 泰康,澤井 仁美,城 宣嗣,伊藤 隆
    • 学会等名
      バイオカンファレンス2022
  • [学会発表] Solution NMR analysis reveals different binding modes on the interaction between a human multi-domain protein GRB2 and human SOS1-PRMs2022

    • 著者名/発表者名
      館野 桂太,菅澤 はるか,安藤 考史,田端 真彩子,美川 務,猪股 晃介,甲斐荘 正恒,三島 正規,杉田 有治,池谷 鉄兵,伊藤 隆
    • 学会等名
      バイオカンファレンス2022
  • [学会発表] Structure determination of a human multi-domain protein, GRB2, by paramagnetic NMR2022

    • 著者名/発表者名
      安藤 考史,菅澤 はるか,館野 桂太,田端 真彩子,美川 務,宮野入 洋平,川端 庸平,Hisham Dokainish,Weitong Ren,大出 真央,寺内 勉,猪股 晃介,三島 正規,甲斐荘 正恒,杉田 有治,池谷 鉄兵,伊藤 隆
    • 学会等名
      バイオカンファレンス2022
  • [学会発表] Interaction analysis of K-Ras4BG12V with Rgl2-RBD by solution NMR2022

    • 著者名/発表者名
      富樫 直之,宮田 裕貴,亀井 駿,菅澤 はるか,美川 務,猪股 晃介,田仲 加代子,伊藤 隆,池谷 鉄兵
    • 学会等名
      バイオカンファレンス2022
  • [学会発表] NMR studies on the N-terminal SH3 domain-mediated binding of Drosophila Drk to Sos and Dos2022

    • 著者名/発表者名
      井口 真由美,Sayeesh, PM, 池谷 鉄兵, 伊藤 隆
    • 学会等名
      バイオカンファレンス2022
  • [学会発表] NMR studies of site-specific interaction of Drosophila adapter protein Drk with Sos and Dos2022

    • 著者名/発表者名
      Sayeesh P M, T. Ikeya, H. Sugasawa, R. Watanabe and Y. Ito
    • 学会等名
      EMBO lecture course
    • 国際学会

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公開日: 2023-12-25  

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