研究課題/領域番号 |
21K06116
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研究機関 | 創価大学 |
研究代表者 |
池口 雅道 創価大学, 理工学部, 教授 (00192477)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フェリチン / 正味電荷 / 鉄 / 大腸菌 / アオサ / 珪藻 / 緑色硫黄細菌 |
研究実績の概要 |
フェリチンは24個のポリペプチドが球殻状に集合したタンパク質で、2価鉄を酸化し、ミネラル化した酸化鉄を球殻内部に貯蔵する。フェリチンが持つ負電荷とそれによって作られる球殻内部の電位勾配がフェリチンの鉄取り込み機能にどのように影響しているのかを明らかにすることを目的として、大腸菌フェリチン(EcFtn)の球殻外側表面に位置し、サブユニット間の相互作用に関与していない1~4残基のグルタミン(Gln)をグルタミン酸(Glu)に置換したQE1~QE4変異体、同様に1~4残基のGluをGlnに置換したEQ1~EQ4変異体(これらを総称して正味電荷変異体と呼ぶ)を作製し、その鉄取り込み機能を調べた。鉄酸化活性、鉄取り込み量ともに、各正味電荷変異体と野生型EcFtnに大きな差は見られなかった。 またEcFtnよりも理論正味電荷数(負の電荷を持つ可能性があるアスパラギン酸とグルタミン酸の残基数から正の電荷を持つリジン、アルギニンの残基数減じた数)が大きい、アオサUlva pertusフェリチン(UpFtn)、珪藻 Pseudo-nitzschia multiseriesフェリチン(PmFtn)、緑色硫黄細菌 Chlorobaculum tepidum フェリチン(CtFtn)の遺伝子を合成あるいは譲渡を受け、大腸菌で発現、精製した。UpFtn、PmFtn、CtFtnのいずれも20 mMリン酸緩衝液(pH 7)や50 mM Tris緩衝液(pH 8)の低イオン強度条件で24量体を維持しており、真正細菌 Thermotoga maritima や古細菌 Archaeoglobus fulgidus のフェリチンのように低イオン強度下で解離して静電的な反発を回避する戦略は取っていないようである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書の研究実施計画の欄で記述した令和3年度に計画した実験を全て実施できた。 EcFtnのグルタミン酸残基数を増やしても負電荷が増えないのは、ある程度グルタミン酸残基数を増やすと、その負電荷のため球殻表面での電位が低くなって、それ以上グルタミン酸側鎖が解離しないためであると予想した。その結果として、球殻構造の安定性は低下すると考えたが、安定性の評価方法に問題があり、再検討している。 また、細菌、古細菌、植物のフェリチンで負電荷が多い傾向は、これらの生物種におけるフェリチンの機能において負電荷が多いことが有利に働く所以であると推測したが、EcFtnの正味電荷変異体では顕著な機能上の違いは見いだせていない。
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今後の研究の推進方策 |
当初、計画した通りUpFtn、PmFtnの球殻外側表面に位置しサブユニット間の相互作用に関与していないGlu, Gln残基を探索し、これらをそれぞれGln, Gluに置換した変異体を作製する。これらの変異体が野生型と同様に24量体を形成しているか、またサブユニットの構造に変化がないかを円二色性スペクトル、ゲル濾過クロマトグラフィー、超遠心分析、X線小角散乱で確認する。また、これら変異体の電荷数を電気泳動によって観測し、EcFtnのようにUpFtn、PmFtnも物理的に可能な最大限の負電荷を有しているのか明らかにする。さらには、これらの変異体についても鉄取り込み機能、熱安定性を調べ、鉄取り込み機能と電荷数、あるいは構造安定性と電荷数の関係を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が少額であり、無理に「0」にするよりも翌年度に合算して使用した方が合理的であるため。
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