タンパク質は本来正しく折りたたみ、生命にとって必要不可欠な機能を果たす。しかし、時に凝集し、そのタンパク質凝集体が病気を引き起こすことがある。これまでに約40種類の神経変性疾患がタンパク質凝集体により引き起こされることが分かっている。これらのタンパク質凝集体に赤外自由電子レーザーを照射して破壊し、新しい治療法開発につなげようという試みが行われている。しかし、タンパク質凝集体が自由電子レーザーにより破壊される機構は分かっていなかった。昨年度までにアルツハイマー病の原因となるアミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集体およびポリアラニン病の原因物質であるポリアラニン凝集体に対して自由電子レーザーを照射する分子動力学シミュレーションを実行し、その破壊過程を原子レベルで初めて解明した。 これまでの研究からポリアラニン凝集体の方がAβ凝集体よりも破壊されにくいことが分かった。そこで、本研究の最終年度である今年度はその理由を解明した。ポリアラニン凝集体は疎水性アミノ酸残基のみから形成されるため、もともと水分子がその近傍に比較的少ない。そのため、赤外線レーザーが照射されてペプチド間の分子間水素結合が切れた際に、すかさず水分子がその隙間に入り込むというイベントが少ないのである。さらにこれを一般化して、親水性アミノ酸残基が少ないタンパク質凝集体ほど赤外線レーザーで破壊されにくいという経験則を導くことにも成功した。
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