研究課題/領域番号 |
21K06124
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
粟津 暁紀 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 准教授 (00448234)
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研究分担者 |
坂本 尚昭 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 准教授 (00332338)
上野 勝 広島大学, 統合生命科学研究科(先), 准教授 (90293597)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 核小体 / DNA二本鎖切断修復 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究実績は下記の通りである。 (1)核小体の構造維持と動態の制御機序におけるRPLタンパク質ファミリーの役割の解明: 核小体はリボソーム集合の部位であり、液液相分離によって形成される。核小体には複数のリボソームDNA(rDNA)アレイがバンドルされているが、そのメカニズムと生理的意義は不明であった。本研究では特定の60Sリボソームタンパク質セット、特にRPL5を欠く細胞で、核小体内部のrDNA領域の易動度が上昇し、核小体の球状形態が崩壊する様子が見られた。本研究ではこれらの観察結果を、粗視化分子動力学モデルによって再現し、RPL5の役割とその欠落による核小体崩壊の機序を明らかにされました。このrDNAアレイのバンドリングにおけるRPL5の役割の解明は、核小体の新規の生物物理学的特性を明らかにし。リボソーム症の病因解明に寄与する可能性がある。 (2)酵母DNA2本鎖切断時のゲノム修復部位形成による核内ゲノム構造変化機序の解明:放射線などによって生じる DNA 二本鎖切断は、癌などを引き起こす可能性のある最も深刻なDNA損傷である。真核生物は酵母からヒトまで、 DNA 損傷の認識と修復を担う分子集合体をゲノム上に形成する機構を進化的に獲得している。更にこれらの生物では共通して、この修復過程の初期に染色体の運動性が上昇し、構造を大きく再編することも知られている。 しかしこの染色体スケールの動態の物理的機序は不明なままであった。 本研究では、出芽酵母を用いた実験の知見に着目し、DNA 二本鎖切断によって起こる核大域的なヒストンの分解及び損傷部位局所的なクロマチン状態の変化を考慮した、二本鎖切断発生時の酵母核内染色体の数学的モデルを構築し、そのような核内動態の力学的機序を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、ゲノム上の特異的な領域をコアに形成される核内構造体の動態とその制御機序の解明を通じ、真核生物の生理活性の基盤を担う遺伝子制御システムを支える物理化学過程を、蛍光顕微鏡イメージング、観察画像データ及び公共データベース上のエピゲノムデータ解析、それらに基づく数理モデル構築とそのシミュレーションを通じて明らかにすることである。2021年度はそのうち、あらゆる真核生物で保持され、リボソーム形成の中心的役割を担う、核小体の構造・動態とそれによるrDNAの凝集の機序を、実験系グループと共同で明らかにした。本研究課題の代表者はこの研究の中で、核小体が安定的な形態維持する状況と崩壊する状況での、実験で観察されている核小体構成因子の核内分布及びその異常拡散動態を再現することで、この研究に貢献した。 また放射線などにより損傷を受けたゲノム上に形成される、修復のための分子構造体形成により誘引されると考えられてきた、染色体大域的な構造変化動態の機序を、出芽酵母を用いた実験結果を再現することで考察した。そして、酵母のマイクロコッカルヌクレアーゼ解析データの解析より確認された、DNA損傷によって起こる核大域的なヒストン分解の影響も踏まえ、酵母ゲノムの高分子物理的モデルを構築し、シミュレーションにより実験で観察されている核大域的なゲノム易動度上昇とゲノム構造変化を再現し、ヒストン分解による実効的に生じるクロマチン混み合いと、損傷修復を担う分子構造体の物性的特異性がこの構造変化を引き起こすことを見出した。 このように長い間核内の分子生物学に居続けている、機能に必要な分子の同定と、その分子によってどのように機能が果たされるかの機序とのミッシングリンクを、いくつか繋ぐことに成功している。
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今後の研究の推進方策 |
核内構造体の形成・安定化・崩壊の細胞周期・発生段階依存性について、引き続き、蛍光顕微鏡イメージング、観察画像データ及び公共データベース上のエピゲノムデータ解析、それらに基づく数理モデル構築とそのシミュレーションを通じて明らかにしていく。本年ターゲットとする現象の一つ目は、ウニ初期胚で形成されるヒストンローカスボディの、セントロメア凝集との関係に着目した形成機序とその発生段階依存性である。現在までにセントロメアとヒストンローカスボディ双方をそれぞれ携行観察することはできているので、今後はテロメアの分布も含め3者を同時共染色したライブイメージングを行い、発生ステージ依存的な3者の核内分布の特徴・変動を明らかにする。またその知見及び現在高精度化を進めているウニゲノム配列の特徴を用いて、ゲノムの高分子物理的モデルを構築し、ヒストンローカス間の核内配置関係のセントロメア・テロメア分布依存性をシミュレーションにより推定し、ヒストンローカスボディ形成の機序を明らかにする。 ターゲットとする2つ目の現象は、高等生物に普遍的に存在する核スペックルの、核内転写活性状態依存的な形態形成・崩壊である。核スペックルは転写産物のスプライシングに関わる因子を多く含む斑状の核内構造体であるが、細胞周期の進行や薬剤処理などによって生じる核内転写活性変化に伴い、その形状を大きく変化することが知られている。本研究ではこの構造変化に対し、核スペックル形態の主要構成因子と目されているSON,SRSFタンパク質ファミリー、Noncoding RNAであるMALAT1、及びスプライシングを受ける転写直後の産物 pre-mRNA の分子形態・物性・分子間親和性を模擬した粗視化分子モデルを構築し、その集合体のシミュレーションにより現象を再現し、その動態の性質と機序を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度納入予定であった機器の在庫不足による納入の遅れにより、支払いが次年度にずれ込んだため。この次年度使用額にて該当する機器の支払いを次年度に行う予定である。
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