研究課題/領域番号 |
21K06138
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
吉川 治孝 徳島大学, 先端酵素学研究所, 助教 (60709567)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Myc / リボソーム |
研究実績の概要 |
リボソームは生物に必須の細胞内翻訳装置である。がん細胞はリボソーム合成を活性化させてリボソーム量を増やし、その成長と増殖に必要なタンパク質量を確保する。転写因子Mycはリボソームの全構成成分の遺伝子転写と、リボソーム自体の合成に必要なタンパク質群の遺伝子転写を促進することで、リボソーム量の増加に寄与する。本研究では、Mycによるリボソームの質的変化とそれに起因する翻訳能の変化も細胞がん化に関わるのではないか?という仮説のもと、Myc依存的なリボソームとの相互作用タンパク質の変化を系統的に解析することを目的としている。 本年度はまず、本研究の中核をなす「Ribo Mega-SEC:サイズ排除クロマトグラフィーによるリボソームの分離法」を、現所属でも確立した。この際に、現所属で新たに導入したuHPLC装置に適した形でリボソームの分離条件を最適化した結果、従来法よりも高感度で、かつ高再現的にリボソームを分離することができた。重要なことに、現在の方法では高感度がゆえに数十マイクログラム程度のタンパク質を含む試料からもリボソームを分離でき、さらに試料間でポリソーム量・リボソームサブユニット量の統計的有意な変動も見出している。このことは、将来的に臨床検体などのタンパク質量に限りのある試料からのリボソームの分離と解析も可能であることを示している。 この最適化したRibo Mega-SECを用いて、当初の計画通りリボソームインタラクトーム解析法を立ち上げた。具体的には、Myc発現時・非発現時の細胞抽出液をポリソームと各リボソームサブユニットに分離・分画し、質量分析計を用いたラベルフリー定量プロテオーム法により解析し、ポリソームおよび各リボソームサブユニットに特異的に相互作用するタンパク質を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画にはなかったものの、新しいuHPLC装置を用いたRibo Mega-SECの高感度化は将来的な臨床検体への応用も考慮すると、非常に大きな前進であると言える。また確立した簡便なリボソームインタラクトーム解析法によって、Myc発現依存的にリボソーム構成タンパク質(RPL)の一種がポリソームにより取り組まれることを見出している。このRPLはこれまで恒常的なリボソーム構成因子とされていたが、この結果はMyc発現時にのみ取り込まれることを示しており、すなわちMyc依存的な特殊化リボソームを構成する一端であると考えられる。さらにMyc発現によって翻訳効率が高いポリソーム量が増えていたことから、この同定したRPLがポリソーム構造を形成しやすくなっている可能性も考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
特定したRPLがポリソーム構造の形成にどのように関わるか、また翻訳制御にどのように関わるかを検証する。具体的には、Myc発現下でこのRPLをsiRNAによってノックダウンまたはCrispr-Cas9によってノックアウトし、Ribo Mega-SECプロファイルによってポリソーム形成能を、in vivo puromycinラベリングとウェスタンブロットによって翻訳能を評価する。またクロスリンカーを用いた質量分析法(クロスリンクMS)を用いることで特定したRPLがリボソーム内でどの因子と直接結合するのか、またRPLのどのアミノ酸領域がリボソームとの結合に必要なのか、をマッピングする。これにより、Myc依存的な特殊化リボソームの分子的実体の解明につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
簡便なリボソームインタラクトーム解析法では非常に多数のサンプルを質量分析計にて分析する必要があるため、多額の費用を想定していた。しかし今年度は現所属でのRibo Mega-SECの立ち上げから本研究を始めたために計画よりも簡便なリボソームインタラクトーム解析法による分析が進んでいないこと、また新型コロナウイルス感染症拡大による学会大会参加の規制もあったことから、次年度使用額が生じた。そのため、翌年度分として請求した研究費と合わせて、リボソームインタラクトーム解析法のために物品費を、また日本プロテオーム学会や日本分子生物学会参加のために旅費を使用する予定である。
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