研究課題/領域番号 |
21K06140
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小口 祐伴 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (40599370)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シーケンス技術開発 |
研究実績の概要 |
本研究は細胞内に存在する遺伝子(mRNA)とタンパク質の両方の位置情報を1分子単位に取得する方法の確立を目指す。従来のこのような分子の位置情報を取得する方法は一般に、対象となるmRNAやタンパク質分子を蛍光標識することで検出する。また、複数の蛍光色素を使用することで多重染色を行い、一度に複数の対象の計測を実現するが、実際には蛍光色素の漏れ込みの問題など、同時に使用可能な蛍光色素の種類数は限られる。そこで本研究は、蛍光色素ではなく、DNAバーコード分子によって対象を標識することで、この配列を読み解き分子の種類を特定し、観察対象の高多重化を図る。このDNAバーコード分子の識別には、本研究実施者が独自に開発したDNAバーコード1分子空間デコーディング法を活用する。また、このDNAバーコード1分子空間デコーディング法は、mRNA(正確にはcDNAに変換後)の配列の解読・識別も可能である。検出の高多重化を図るだけでなく、mRNAとタンパク質の同時計測も可能とした1分子空間解像度を備えたmRNA・タンパク質分子の空間分布解析技術を目指す。 初年度となる今年度は、細胞内のmRNAを検出しつつ、加えて、タンパク質をDNAバーコード標識抗体で標識し検出するための、サンプル処理に関する検討を行った。具体的には、3T3細胞を対象として、固定・除膜処理を施し、まずmRNA分子をcDNAへと逆転写した。逆転写の際にcDNA分子にはビオチン分子を付加することで、ビオチン-アジビン結合を介して、シーケンスフローセル(DNAバーコード1分子空間デコーディング法を実施する反応の場)にこれらの分子を転写した。今後は、さらに同時タンパク質の可視化に向けて加えてDNAバーコード標識抗体で染色した細胞での計測を試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はDNAバーコード1分子空間デコーディング法に適した細胞サンプルの前処理過程に関する検討を行った。具体的には、3T3細胞を対象として、固定・除膜処理を施し、まずmRNA分子をcDNAへと逆転写した。まず、この逆転写したcDNAがシーケンスフローセル上にて検出できることを確認した。cDNAはビオチン分子を持つプライマーを用いることでビオチン化を図った。他方、表面にアビジン分子を有するシーケンスフローセルにDNA化後の細胞サンプルをこれに導入すると、ビオチン-アジビン結合を介して、シーケンスフローセル上に細胞内での位置を保持しつつcDNA分子が捕捉されることが期待される。実際にシーケンスフローセルにcDNAが転写されたことを、DNAバーコード1分子空間デコーディング法によって確認した。しかし、一連の操作の中で、cDNAが細胞から漏出する問題も確認された。細胞内mRNAの検出を精度良くするためにもこの漏出を抑えることは不可欠であり、現在、細胞の固定法等の条件検討を進めている。まだタンパク質分子の同時検出には至っていないが、細胞内mRNAのシーケンス基板への転写を確認できたという点から、概ね計画の通り順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の検討により、細胞内のmRNA(cDNAに変換後)をシーケンスフローセル上に転写し、解析可能であることを示す結果を取得できた。その一方で、細胞からcDNAの漏出が生じている実験結果も得られた。今後の直近にはこの漏出を低減するような細胞処理法を模索する。これに並行して、DNAバーコード標識抗体によるタンパク質の同時検出に関する検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はmRNAとタンパク質の同時検出を可能とするサンプルの調製方法の検討を進めることと計画していた。しかし、mRNAの検出において当初想定していなかった細胞からの漏出問題が生じ、その解決を優先した。タンパク質の検出のためには、DNAバーコード標識をした抗体を必要とし、本年度の予算として計上していたが、以上のようにmRNAに関する検討を優先したことから、これらの購入を控えたことが主な理由である。次年度にはこれらに加えて既に計画分のものを購入する予定である。
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