研究課題/領域番号 |
21K06146
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
金保 安則 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00214437)
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研究分担者 |
船越 祐司 筑波大学, 医学医療系, 助教 (30415286)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 低分子量G蛋白質Arf6 / 炎症応答 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
炎症応答は、病原体の排除、損傷組織の修復に重要な機構である一方、過剰あるいは慢性的な炎症応答は、様々な炎症性疾患を引き起こす。それ故、炎症反応の適切なコントロールは、生体の恒常性維持において極めて重要となる。本研究では、低分子量G蛋白質Arf6の炎症応答における機能解明を目的とする。Arf6は、アクチン細胞骨格のリモデリングを介して細胞膜ダイナミクスを制御しており、これに基づいてエンドサイトーシス、分泌、細胞内膜輸送において中心的な役割を果たす。本研究では、細胞膜ダイナミクスが非常に活発な貪食細胞であるマクロファージを中心に、Arf6の機能を解析する。本年度は、マクロファージ特異的なArf6コンディショナルノックアウト(cKO)マウスを作製・解析し、以下の知見を得た。 Arf6-cKOマウスを用いて喘息モデルを作製したところ、Arf6-cKOマウスでは、炎症応答時に誘導される肺胞洗浄液中の各種白血球数、炎症性サイトカインが顕著に抑制されており、また、肺の組織学的な解析からもアレルギー性の気管支喘息が抑制されていることを明らかにした。さらに、メカニズムを明らかにするために、マクロファージにおいて異物を認識しIL-1βの成熟・放出を誘導する複合体、インフラマソームの解析を行った。活性化されたインフラマソームはそれ自体が細胞外に放出され、周囲のマクロファージに貪食され、取り込んだマクロファージでさらなるIL-1β産生を誘導し、炎症を増幅させる。Arf6-cKOマウスでは、炎症誘導物質による初期のインフラマソーム形成には影響がみられない一方で、細胞外に添加したインフラマソームによって誘導されるIL-1β産生が、in vitro、in vivoにおいて顕著に低下していた。このことから、Arf6はインフラマソームの細胞間伝播に関与し、炎症応答を促進することが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、Arf6の炎症応答における関与を主にマクロファージにおいて証明し、その分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。また、炎症性疾患の新たな治療標的としてArf6を提唱することを目指している。本年度は、マクロファージ特異的Arf6-cKOマウスの作製とそれを用いたアレルギー性喘息モデルマウスを作出することに成功した。そのマウスを解析する上での実験的手法(炎症性サイトカイン定量のためのELISA法、免疫担当細胞解析のためのFACS解析、各種組織学的な解析手法)を確立するとともに、マクロファージ中のArf6がアレルギー性気管支喘息を増悪させることを明らかにした。これは、Arf6が炎症応答、アレルギー性炎症疾患において重要な役割を果たすことを世界に先駆けてin vivoで示した大きな研究成果である。さらに、そのメカニズムの一端として、Arf6がインフラマソームの細胞間伝播に関わることを見出しており、これも大きな成果の一つである。これらの知見をもとに、残りの2年間でArf6依存の炎症応答メカニズムを解明するとともに、その経路を阻害することで炎症応答を抑制することを示すことは十分可能と考えられることから、本研究課題は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を基に、残りの研究期間で以下の解析を実施する。 1)インフラマソーム細胞間伝播におけるArf6の機能とシグナル経路の解明:Arf6欠損マクロファージでは、細胞外に添加したインフラマソームによるIL-1β産生が抑制されていたことから、細胞外インフラマソームの取り込み過程(貪食)にArf6が関わる可能性が高い。まずこの点を検証する。さらに、マクロファージが細胞外インフラマソームを認識し、Arf6が活性化され、下流のエフェクター因子を介して貪食を促進する一連のシグナル経路を明らかにする。一方で、Arf6は分泌・エキソサイトーシスにも関わることから、炎症誘導物質を認識し活性化したインフラマソームが、マクロファージから分泌される過程におけるArf6の機能についても解析する。 2)炎症応答時にArf6が制御するその他のマクロファージ細胞機能の解析:Arf6はエンドサイトーシスや細胞内膜輸送、分泌、それらを介した細胞接着や遊走など、多様な生理機能を担う。それ故、Arf6は上記のインフラマソーム細胞間伝播の他にも、マクロファージのサイトカイン放出、遊走や浸潤、各種免疫受容体の取り込みなどに関わっていることが考えられる。これらについて検討するとともに、その際のシグナル経路、分子メカニズムを明らかにしていく。 3)特異的阻害剤を用いた個体レベルでの炎症応答の抑制:Arf6や上記1)、2)で明らかにしたシグナル分子を特異的に阻害する薬剤により、マウスにおける喘息、炎症が抑制されるのかを検証する。これにより、Arf6やそのシグナル経路が、炎症性疾患を治療する上で有効な標的となりうることを証明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、Arf6のマクロファージにおける生理機能を幅広く解析するとともに、Arf6の制御因子や下流因子を網羅的に解析する予定であったが、いち早くインフラマソーム細胞間伝播へのArf6の関与を明らかにできたことから、計画を一部変更し、その他の細胞機能の解析やArf6関連因子の網羅的な探索を次年度以降に実施することにしたため。また、これに伴い細胞レベルでの解析が中心となり、用いるマウスの匹数も当初計画から変更し、次年度以降に用いるマウスの匹数が増加することが予想されたため。 令和4年度に繰り越した予算は、令和4年度分として請求した助成金と合わせて、遺伝子工学関連試薬、細胞培養試薬、マウスの維持・管理、購入費用に使用する予定である。
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