研究課題/領域番号 |
21K06150
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山城 佐和子 京都大学, 生命科学研究科, 講師 (00624347)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 細胞接着 / インテグリン / アクチン / 接着斑 / 細胞内1分子顕微鏡 / メカノバイオロジー / 細胞内定量解析 |
研究実績の概要 |
細胞-基質間接着(接着斑)形成と細胞仮足の伸展は、がん細胞の運動亢進や神経突起伸長に重要である。接着斑は接着分子インテグリンが多様なタンパク質を介して細胞外基質とアクチン細胞骨格を連結する。細胞仮足内では、アクチン線維が中心に向かって絶え間なく移動する求心性アクチン線維流動が存在する。アクチン線維流動は、接着斑と連結して力を伝達するが、その力伝達機構はよくわかっていない。本研究では、細胞内単分子スペックル顕微鏡法により、アクチン線維流動と接着斑の連結機構を明らかにすることを目的としている。 これまで私は、接着斑分子タリンの細胞葉状仮足における蛍光単分子イメージングを行い、アクチン求心性流動に連関するタリン1分子動態を明らかにしている。タリンはN末端側にインテグリン結合部位、C末側ドメインに2つのアクチン結合部位を持ち、インテグリンとアクチン線維を繋ぐ主要な接着斑分子である。また、タリンは13のαヘリックス束ドメインが連なるrod領域を持ち、インビトロでこの領域をN-C末端の方向に引っ張ると、ドメインがアンフォールドする。2021年度は、培養上皮A6細胞を用いてタリン遺伝子ノックダウン解析を行った。まず、タリンノックダウンにより、アクチン流動速度が増加した。この結果より、タリンがアクチンーインテグリン連結に必要であることがわかった。さらに、タリンrod領域の連結への寄与を解析するため、rod領域を欠失した変異体やrod領域を他分子の弾性ドメインと置換したキメラタンパク質をタリンノックダウン細胞に発現させ、アクチン線維流動に対する影響を調べた。その結果、タリンrod領域のアンフォールディングがアクチンーインテグリン連結に必要であることを明らかにした。これらの成果は、2021年に開催された第73日本細胞生物学会と第44回日本分子生物学会において報告した。また、現在論文投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
アクチン細胞骨格は細胞内力発生の場であり、アクチン依存的な張力は接着斑の成長や維持に必須である。主要な接着分子タリンは接着分子インテグリンとアクチン線維を連結することが報告されている。一方、接着斑と連結するアクチンネットワークは常に求心的に流動しており、タリンがどのように、動き続けるアクチン線維とインテグリンの連結を実現するのかは不明であった。本研究では、高精度蛍光1分子イメージングでタリンの動態を可視化することにより、タリンが構造変化を伴ってアクチン線維と基質を連結することを見出した。この構造変化はタリンによるアクチンー基質連結の時間を延長することで力伝達を促進する可能性が考えられた。アメリカリーハイ大学の研究グループ (Dimitrious Vavylonis 教授)との共同研究により、シミュレーション解析を行ったところ、タリンrod領域のアンフォールディングにより力伝達が増加することが確かめられた。さらに、細胞生物学的解析によって、タリンrod領域のアンフォールディングがアクチンー基質連結に必要であることを明らかにした。 これらの一連の研究成果により、タリン分子の構造変化(アンフォールディング)に依存した新しいアクチンネットワークと接着斑の連結機構を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、タリン分子の構造変化(アンフォールディング)に依存した新しいアクチンネットワークと接着斑の連結機構を明らかにした。本研究の成果は、マイクロメートルスケールの細胞内構造の動きを、ナノメートルスケールの分子がダイナミックに構造変化することによって細胞足場に連結し、力伝達を実現する新しい機構である。この発見は重要であるため、学術論文の投稿を最優先にする。論文投稿後は、査読者の返答に応じて追加実験等を含むリバイスと再投稿を行い、論文発表を目指す。また、主要な接着斑分子であるビンキュリンとパキシリンについても蛍光1分子解析を進めており、これらの分子とアクチン線維流動の連関について、引き続き研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は主に、コンピューターを用いたデータ解析とシミュレーション解析、及び、論文投稿準備を行ったため、実験に必要な物品費の使途が予定より少なかった。また、参加した学会がオンライン開催となったため、旅費の使途が予定より少なかった。本年度は論文投稿後の追加実験や、論文受理に伴う掲載費に当該科研費を使用する。また国内外の学会で研究成果を発表するため、当該科研費を使用する。
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