研究課題/領域番号 |
21K06170
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
荒木 保弘 大阪大学, 歯学研究科, 助教 (60345254)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | TORC1 / 酵母 / 細胞成長 / 細胞増殖 / アミノ酸 / リン酸化修飾 / ユビキチン / プロテアソーム |
研究実績の概要 |
細胞は栄養源のアミノ酸を厳密に感知して、細胞の増殖と成長を制御している。この情報はTORC1に集約され、このリン酸化酵素のオンオフに転換される。TORC1の活性化において、細胞が20種もの多様なアミノ酸をどのように認識しているかは 長く最大の未解決問題であった。これはTORC1の活性化経路の全貌が不明であったことが障壁となり、着手しにくかったことが一因である。申請者は新規活性化経路としてPib2経路を見出し、更に既知のGtr/Ego経路及び新規Pib2経路の二経路のみがTORC1活性化経路として機能することを明らかにした。これにより、全てのアミノ酸はこの二経路を経由し、各々のアミノ酸の認識は二経路の周辺因子によりなされていると考えられる。本研究ではPib2相互作用因子として単離したSCF-Das1ユビキチンライゲースを中心に据えタンパク質分解を介したPib2経路活性制御機構の解明を目指す。 本年度は以下の点を明らかにした。①野性酵母株とDAS1欠損株でPib2のタンパク質量に差異がなかった。従ってSCF-Das1ユビキチンライゲースがPib2の分解を担っているという当初の予想が誤りであった。②DAS1欠損株においてTORC1の基質であるSch9のリン酸化が有意に亢進していた。③Gtr/Ego経路不全株とPIB2欠損株は共にTORC1阻害剤であるラパマイシンに感受性を示す。DAS1欠損は前者の感受性を抑圧するが、後者には全く影響がなかった。以上より、SCFDas1ユビキチンライゲースはPib2周辺に存在し、Pib2経路の活性を正に制御する因子を標的にすると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞の成長と増殖を司るTORC1はアミノ酸により自身の持つリン酸化酵素活性を活性化する。TORC1の活性化経路としてGtr/Ego経路及びPib2経路の二経路が見出されている。更にTORC1活性化経路はGtr/Ego経路とPib2経路の二経路しか存在しないことから、全てのアミノ酸はこの二経路を経由していると考えられる。Pib2経路の活性制御の解明は“アミノ酸がどのようにTORC1を活性化するのか”という最も重要な課題に通じると考える。申請者は、SCF-Das1ユビキチンライゲースがPib2に相互作用すること、Pib2が飢餓によりタンパク質量が減少することを見出し、Pib2経路の活性制御はSCF-Das1によるユビキチン化とプロテアソームを介したPib2タンパク質の分解により負に制御されると想定していた。しかし、新規に作製した抗Pib2抗体を用い、内在のPib2タンパク質量の変化を再度検証した結果、飢餓によるPib2のタンパク質量の減少は見られず、また野性株とDAS1欠損株でPib2タンパク質量に差異がなかった。以前に見られたタンパク質量の変化は検出に用いたタグ付加によるアーティファクトであったと考えられる。従ってSCF-Das1ユビキチンライゲースがPib2の分解を担っているという当初の予想の修正が必要となった。DAS1欠損株においてTORC1が有意に活性化していること、Pib2に依存するTORC1の活性が増強することから、SCF-Das1ユビキチンライゲースは、TORC1構成因子やPib2経路を正に制御する因子を分解し、Pib2経路をネガティブに制御しているという新たな仮説に至った。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の仮説の修正をもとに以下の点を明らかにする。① 何がSCF-Das1ユビキチンライゲースにより分解されるか。② 何がPib2のSCF-Das1による分解のスィッチを入れるのか。 ① これまでにPib2経路のみを経由するアミノ酸(Pib2経路特異的アミノ酸)を同定した。これによりPib2経路のみを活性化することができるようになった。窒素源飢餓にある野性酵母株またはDAS1欠損株にPib2経路特異的アミノ酸添加前後でTORC1またはPib2との相互作用に差異を生じるタンパク質を質量分析により同定する。これらはSCF-Das1ユビキチンライゲースの標的となっているアミノ酸感知タンパク質やPib2経路構成因子候補因子である。さらに精製標品を用いて、実際に試験管内でユビキチン修飾の有無を検証する。試験管内再構成系に必要なリコンビナントタンパク質、Uba1(E1酵素)、Cdc34 (E2酵素)、ユビキチン、Rbx1-Cdc53-Skp1(SCF)、Das1、基質候補を大腸菌またはバキュロウイルスを用いた昆虫細胞から調製する。これらを試験管内で混合し、ATP存在下で反応させる。ユビキチン化の有無はウエスタンブロットで確認する。② SCF-Das1のユビキチンライゲースの分解誘導の分子機構を解明する。以下の二つの可能性を検証する。1.翻訳後修飾の変化:SCFは基質の質的変化を認識する例が多々ある。質量分析により、飢餓前後で基質候補の翻訳後修飾、特にリン酸化の変化を同定する。変化があった場合、修飾部位のアミノ酸置換による分解への影響を検証する。2.栄養源に依存したSCF-Das1のユビキチンライゲース活性の変化:アミノ酸の有無によるSCF-Das1のユビキチンライゲース活性の相違を検証する。活性はSCFの自己ユビキチン化をウエスタンブロットで測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度もコロナ禍で研究室での実験活動を自主的に制限したため、研究計画遂行に遅延が若干生じた。また出席を予定していた学会への参加をキャンセルしただけでなく、共同研究の打ち合わせもオンラインとしたため、計上していた海学会参加費、共同研究先訪問費を使用しなかった。以上は翌年度の海外学会参加費、論文出版経費として持ち越す。Atg13タンパク質に対する抗体の作製を外部に委託するため経費を計上していた。これにはタンパク質あたりウサギ一羽免疫、全採血と精製吸収作業 (抗原タンパク質 固定化作業、精製作業)が含まれる。これらすべてを外部委託するのが一般的であるが、抗体作成の専門家からの助言により精製吸収作業を委託せずに申請者自ら行った。その結果、精製吸収作業代の経費削減となった。これを基金として翌年度に持ち越し、研究に必要な消耗品経費として使用することとした。
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