細胞は栄養源を感知して、細胞の増殖と成長を厳密に制御している。TORC1は栄養源に応じた増殖と成長の制御因子の中心的な役割を担うセリントレオニンキナーゼ複合体であり、機能と構造ともに真核生物で進化的に保存されている。TORC1は多岐にわたる栄養源の中でもアミノ酸に対してよく反応する。アミノ酸に応じてTORC1が活性化し、様々な基質のリン酸化を通して同化作用と異化作用を制御する。細胞が20種ものアミノ酸をどのように認識し、TORC1を活性化するかは最大の未解決問題である。酵母ではTORC1は液胞膜上で活性化する。アミノ酸に呼応してTORC1を細胞質から液胞膜上に局在させる経路としてGtr経路が知られているが、アミノ酸を感知してTORC1活性を制御する機構は未だに不明な点が多い。これまでにGtr経路と独立した、Pib2が介在する新規経路(Pib2経路)を新たに同定し、TORC1活性化経路はGtr経路とPib2経路の二経路のみであること、各々のアミノ酸により経由する経路が特異的であることを明らかにしている。前年度、システインがPib2へ直接結合し、TORC1との相互作用を亢進する知見を得た。本年度はPib2のシステイン結合様式の詳細を明らかにすることを目的に、各アミノ酸残基をアラニンに変換した変異体を用い、システイン結合能への影響を検証した。その結果、システインによるTORC1活性化能を欠失したPib2変異体としてW632AとF635Aの一残基変異株を取得した。これら変異体はシステイン結合能を喪失している一方で、Pib2経路に依存する他の4種のアミノ酸に呼応しTORC1を活性化した。以上からPib2がシステインを直接感知し、TORC1へその存在を伝えるシステインセンサーであるという結論に至った。本研究により、多様なアミノ酸センシング機構の理解が種を超えて大きく進むものと考える。
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