研究課題/領域番号 |
21K06174
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
谷 時雄 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 学術研究員 (80197516)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 核形態 / 放線菌 / 化合物 / ケミカルバイオロジー / YB-1 / 非翻訳性RNA / ncRNA |
研究実績の概要 |
本研究では、放線菌培養上清から分離したHeLa細胞核の分葉化を誘導する化合物2057を用いて、細胞分化や癌化の過程における核の形を変化させるしくみの解明、即ち、核の形が変わることで遺伝子発現や、核内クロマチン環境が受ける変化とその生物学的意義について解明する。昨年度までの解析によって、化合物2057処理によって、核分葉化初期において遺伝子発現が大きく変動する機能未知の長鎖非翻訳性RNAのうちRP11-6F2.5 およびRP11-7F17.7 ncRNAが核の分葉化に密接に関与している可能性が示唆された。そこで、令和5年度では、RP11-6F2.5およびRP11-7F17.7についてアンチセンスオリゴ (ASO) を用いたノックダウンを行った後に化合物2057による処理を行い、核の分葉化が抑制されるか解析した。その結果、いずれのノックダウン細胞もコントロールと比較して核の分葉化率に変化は見られなかった。これらの結果から、RP11-6F2.5およびRP11-7F17.7はいずれも、単独では核の分葉化を誘導する機能を持たない可能性が示唆された。RP11-6F2.5 および RP11-7F17.7 は、化合物2057処理後に核分葉化のキー因子であるリン酸化YB-1と結合している。今後は、RP11-6F2.5 および RP11-7F17.7のノックダウン細胞において、リン酸化YB-1の中心体局在等への影響について詳細に解析を行う。また、RP11-6F2.5 および RP11-7F17.7両方を同時にノックダウンした細胞における核形態の観察や、未処理のHeLa 細胞へのこれらncRNAの過剰発現を行うなどしてより詳細な機能解析を行う予定である。また、化合物2057が分裂酵母の細胞形態に強い影響を与えることを見いだしたので、分裂酵母を用いた化合物2057作用機作の解析も進めたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
核分葉化への直接的影響が結果としてはnegativeであったが、通常のsiRNAでは分解が困難な核局在性RP11-6F2.5 およびRP11-7F17.7 ncRNAのノックダウン解析系の構築ができたのは、これら機能未知ncRNAの解析に対して一歩前進できたと判断している。令和5年3月末で、熊本大学を定年退職したため、今まで使用していたRNA分子遺伝学研究室を次期教授のため整理した。新たな研究場所として、学内のレンタルラボを一部屋借りて、必要な最小限の機器類を移転させると共に、新しく研究室の整備を行った。そのため、諸実験がきちんと実施できるまで少し時間を要し、当初予定よりも研究進捗が遅れたことは残念であった。一方、新たに化合物2057が分裂酵母Schizosaccharomyces pombe の細胞形態にも強い影響を与えることを見いだしたことは、大きな発見であった。分裂酵母はスクリーニングにより耐性変異株を分離することも容易なので、分裂酵母の化合物2057耐性変異株遺伝子の解析により作用機作を解析することも検討していく予定である。また、今後、今までの研究成果を論文として発表することを進めていく。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に実施できなかった研究計画②及び④のHeLa細胞核分葉化核の正常核復帰に伴う遺伝子発現変化及び成人T細胞白血病由来ED細胞株の分葉化核から正常核様形態に復帰した細胞における大規模遺伝子発現動態解析について、正常HeLa細胞及び正常T細胞の発現パターンを次世代シークエンスによるRNA-Seq解析、もしくは既存のRNA-Seq解析データと比較解析して、正常細胞に類似した遺伝子発現パターンに戻っているか、詳細に情報解析を進めて検証していく。また、RNA-Seq解析から得られたRNA発現動態が正しいか、主要な遺伝子については、RT-PCR解析を行って検証する。また、 RP11-6F2.5 および RP11-7F17.7両方を同時にノックダウンした細胞における核形態の観察や、未処理のHeLa 細胞へのこれらncRNAの過剰発現を行いより詳細なこれらncRNAの機能解析を進めていく。また、分裂酵母の化合物2057耐性変異株をスクリーニングし、耐性変異遺伝子の解析により作用機作を解析することも検討していく。なお、研究代表者の谷は、分裂酵母をモデル生物に用いたRNA研究で現在までに40年近い研究実績がある。また、今までの研究成果を論文として発表するための論文執筆を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和5年3月末で、熊本大学を定年退職したため、今まで使用していたRNA分子遺伝学研究室から新しくレンタルした研究室へ移転し、研究室整備を行う必要があった。そのため、新しい実験室での研究開始に少し時間を要し、当初予定よりも研究進捗が遅れ、次年度使用額が生じた。また、論文の執筆や一部研究結果を確実なデータにするために、R6年度まで本研究を延長することが必要であった。次年度使用額は、研究試薬購入及び論文投稿費として使用する。
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