研究課題
小胞体ストレスに晒された細胞は、主に2つの戦略により小胞体ホメオスタシスを回復する。ひとつは、小胞体に挿入された不良タンパク質の軽減のため、小胞体シャペロンによるリフォールディングと小胞体関連分解(ERAD)が活性化される。他方は、小胞体が機能発揮できる許容範囲の維持のための、翻訳抑制とmRNA分解である。しかし、これらのシステムは完全でなく、逃れて合成されたタンパク質のうち、小胞体品質管理に関与しない分泌タンパク質などの小胞体への移行は、小胞体に更なる負荷をかけることになる。これを軽減するシステムとして、小胞体の予防的品質管理(ERpQC) が働く。現在までに、ERpQC分子機構としては、小胞体膜上でSec61トランスロコンにリクルートされたDerlinを介し、小胞体内への輸送から細胞質での分解に運命変更された分泌タンパク質が、小胞体膜上で HRD1によってユビキチン化され、細胞質のプロテアソームに運ばれて分解されることを報告した。しかし、ERpQC基質特異性やDerlinの上流でのERpQC基質認識因子については不明である。さらに、ERADとの違いや、生体内のどこで、いつ、ERpQCが働き、その機能破綻はどのような疾患と関連するかなど未解明な点が多い。本年度は、小胞体ストレス時にDerlinに近接したリボソームを特異的に回収し、ERpQC誘導時に翻訳されたmRNAを解析することで、基質を同定した。さらに、ERpQC複合体中の新たな分子を特定し、その役割と意義について解析を行った結果、ERpQCの翻訳は細胞質で厳密に制御されており、その破綻が細胞質プロテオスタシスの異常に繋がることが明らかとなった。本研究成果は、タンパク質合成の盛んな肝臓などの組織での小胞体への負荷軽減システムの分子機構の解明に繋がり、小胞体の恒常性破綻が原因である疾患への治療標的になることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
申請時の研究実施計画に従い、ストレス時に小胞体の恒常性維持に働く小胞体の予防的品質管理(ER stress-induced pre-emptive quality control: ERpQC)について、その基質とERpQC複合体構成分子を、リボソームプロファイリングと生化学手法により特定することができた。その結果、ERpQC基質の翻訳は細胞質で厳密に制御されており、その制御異常は細胞質側のタンパク質品質低下となり、凝集体蓄積を引き起こすこと明らかになった。本研究成果より、小胞体の品質管理が、小胞体を超えて細胞質プロテオスタシスにも影響を及ぼし、様々な分解系の亢進を引き起こすことが分かった。以上の研究成果は学会や研究会などで発表し、多くの貴重な意見をいただくことができ、今後の課題へのアプローチに繋がった。
申請時の研究実施計画通りに、今後は(1)ERpQCは細胞内のどこで誘導されるのか、またERADと局在は異なるのか、(2)ERpQC基質がどのようにして、小胞体への輸送経路から細胞質への分解経路へその運命を変えるのか、(3)ERpQCの破綻は個体レベルでどう影響を及ぼすか、といった課題について、タンパク質分泌の盛んな肝臓の細胞や異常タンパク質蓄積と疾患が注目される神経の細胞、さらにマウスを用いて生化学的・分子生物学的手法からアプローチしていく。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 1件)
Journal of Japanese Biochemical Society
巻: 94 ページ: 97-101
10.14952/SEIKAGAKU.2022.940097
iScience
巻: 24 ページ: -
10.1016/j.isci.2021.102758