研究課題/領域番号 |
21K06175
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
門脇 寿枝 宮崎大学, 医学部, 助教 (40568200)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 小胞体ストレス / プロテオスタシス / タンパク質分解 |
研究実績の概要 |
小胞体ストレスに晒された細胞は、主に2つの戦略により小胞体ホメオスタシスを回復する。ひとつは、小胞体に挿入された不良タンパク質の軽減のため、小胞体シャペロンによるリフォールディングと小胞体関連分解(ERAD)が活性化される。他方は、小胞体が機能発揮できる許容範囲の維持のための、翻訳抑制とmRNA分解である。しかし、これらのシステムは完全でなく、逃れて合成されたタンパク質のうち、小胞体品質管理に関与しない分泌タンパク質などの小胞体への移行は、小胞体への過負荷となる。これを軽減するシステムとして、小胞体の予防的品質管理(ERpQC)が働く。 現在までに、ERpQC分子機構として、小胞体膜上でSec61トランスロコンにリクルートされたDerlinを介し、小胞体内への輸送から細胞質での分解に運命変更された分泌タンパク質が、小胞体膜上で HRD1によりユビキチン化され、プロテアソームで分解されることを報告した。しかし、ERpQC基質特異性やDerlinの上流でのERpQC基質認識因子については不明である。さらに、ERADとの違いや、ERpQCの生理的意義、その機能破綻が関連する疾患など未解明な点が多い。 本年度は、ERpQC基質の同定のため、小胞体ストレス条件下でDerlin近接リボソームプロファイリングにより同定されたERpQC基質候補について、クローニングを行い、培養細胞に発現させてERpQCの誘導を確認した。さらに、昨年度同定されたERpQC制御因子について、ERpQC複合体中での結合様式や制御機構を解析した結果、細胞質でERpQC基質が翻訳制御されることで、細胞質プロテオスタシスが維持されることが明らかとなった。 本研究成果は、タンパク質合成の盛んな組織での小胞体への負荷軽減システムの分子機構の解明に繋がり、小胞体の恒常性破綻が原因である疾患への治療標的になることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究実施計画に従い、ストレス時に小胞体の恒常性維持に働く小胞体の予防的品質管理(ER stress-induced pre-emptive quality control: ERpQC)について、Derlin近接リボソームプロファイリングにより同定されたERpQC基質候補について、クローニングを行なって培養細胞に発現させ、ERpQC誘導をwestern blottingにて観察し、基質の特定を行うことができた。②ERpQC制御因子を生化学的に解析し、ERpQC複合体構成因子との結合様式や機能解析を行った結果、ERpQC制御因子は細胞質にてERpQC基質を厳密に翻訳制御し、その制御破綻がプロテオスタシスを悪化させ凝集体を形成させることを明らかになった。 本研究成果より、小胞体の品質管理が、小胞体を超えて細胞質プロテオスタシスにも影響を及ぼし、様々な分解系の亢進を引き起こすことが分かった。以上の研究成果は学会や研究会などで発表し、発展した議論を展開でき、今後の課題へのアプローチに繋がった。
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今後の研究の推進方策 |
申請時の研究実施計画通りに、今後は (1)ERpQC基質になるものとならないものの違いは何か(ERpQC基質特異性)、 (2)ERpQC基質がどのようにして、小胞体への輸送経路から細胞質への分解経路へその運命を変えるのか(ERpQC基質認識機構)、 (3)ERpQCの破綻は個体レベルでどう影響を及ぼすか(ERpQCの生理的意義)、 といった課題について、タンパク質分泌の盛んな肝臓の細胞や異常タンパク質蓄積と疾患が注目される神経の細胞、さらにマウスを用いて生化学的・分子生物学的手法からアプローチしていく。
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