研究課題/領域番号 |
21K06176
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中村 太郎 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (30291082)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | BARドメイン / 細胞膜 / 酵母 / 胞子 |
研究実績の概要 |
細胞膜は、平坦ではなく、谷のような陥入構造を持っている。分裂酵母においては、栄養細胞では陥入構造がまばらにランダムに見られるのに対し、胞子では並行して電子顕微鏡下で観察される。この陥入構造の形成には、Pil1,Pil2という2つのBARドメインタンパク質が役割分担をして、関わっていることを申請者らは明らかにした。栄養細胞の陥入構造はPil1、胞子のものはPil2が、主として関わっている。栄養細胞における陥入構造は、「エイソソーム」ともよばれ、エンドサイトーシスなどに積極的に関わっていると考えられる。一方、胞子は代謝がほとんど行われない休眠細胞であるため、その陥入構造がエンドサイトーシスに関与しているとは考えにくい。本研究の目的は、①この特徴的な陥入構造はどのようにして形成されるのか?②陥入構造をもつことは胞子にとってどのような生理的な意味を有するのか?について、分子レベル、細胞レベル、in vitroのレベルから明らかにすることを目的とする。先行研究により、Pil1-GFPは栄養細胞、Pil2-GFPは胞子の細胞膜にスジ状に観察されることが知られている。申請者らは、この局在の違いが機能に重要であると考えた。そこで、まずPil1, Pil2のBARドメインを入れ替えたキメラタンパク質を作製し、その局在を観察した。その結果、Pil1のBARドメインをPil2のものに入れ替えたキメラタンパク質では胞子に局在できなかったが、Pil2のBARドメインをPil1のものに入れ替えたキメラタンパクは胞子膜に局在できた。このことから、Pil2のBARドメインをN末端側、C末端側の領域が胞子細胞膜への局在に重要なはたらきをすることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
Pil1, Pil2のBARドメインを入れ替えたキメラタンパク質を作製し、その局在を観察した。その結果、Pil1のBARドメインをPil2のものに入れ替えたキメラタンパク質では胞子に局在できなかったが、Pil2のBARドメインをPil1のものに入れ替えたキメラタンパクは胞子膜に局在できた。このことから、Pil2のBARドメインをN末端側、C末端側の領域が胞子細胞膜への局在に重要なはたらきをすることが示唆された。さらに、Pil2のN末側、C末側いずれかをPil1のものと入れ替えたキメラタンパク質の局在をみたところ、いずれも正常な局在がみられなかった。このことからいずれの領域も局在に必要なことが明らかとなった。研究の進捗が予定より遅れている原因としては、コロナウイルス禍により、研究に費やす時間や労力が大きく減少した点もある。
|
今後の研究の推進方策 |
Pil2の胞子膜への局在を決める遺伝子の網羅的同定と解析を行う。胞子の陥入構造形成の分子メカニズムを明らかにするため、Pil2の胞子膜への局在に関わる遺伝子を遺伝子KOライブラリーを用いて網羅的に同定する。このライブラリーは生育に必須な遺伝子以外の約4000株からなり、分裂酵母の約8割を占めるため、取得できる可能性は高い。しかしながら、この遺伝子KO株ライブラリーはヘテロタリック株で作製されているため、これらをホモタリック株へと変換する必要がある。そこでホモタリック株のPil2-GFP株をKOライブラリー株とかけ合わせ、Pil2の胞子の局在を効率的に観察出来る系を開発した。この系を用いて、Pil2の局在を決定する因子を網羅的に同定、解析したい。また、リン脂質の組成がオルガネラにより大きく異なるから、リン脂質の合成酵素の変異株(ほとんどは生育に必須なため破壊株は使えない)を用いた局在観察も行いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた分子生物学実験、生化学実験がコロナ禍によりできなくなったため、その関連試薬の購入を次年度に回した。
|