研究課題/領域番号 |
21K06177
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
萬代 研二 北里大学, 医学部, 教授 (50322186)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | シナプス / アファディン / マギン |
研究実績の概要 |
シナプスは神経伝達が起こる細胞間接着で、神経活動に応じてその伝達効率が変化し、同時に大きさや形態の複雑性が変化する。この現象はシナプス可塑性と呼ばれ、学習・記憶の細胞生物学的基盤とされる。そのため、シナプス伝達とシナプスの形態形成に関わる分子機構の解明は、学習・記憶をはじめとする脳の高次機能の機構を理解する目的において必須である。 脳の海馬歯状回顆粒細胞の、苔状線維と呼ばれる軸索の終末とCA3野錐体細胞の樹状突起の近位部との間に形成される苔状線維シナプスでは、上皮細胞のアドヘレンスジャンクションに類似したプンクタアドへレンシアジャンクション(PAJ)と呼ばれる接着装置が良く発達している。研究代表者らは、苔状線維シナプスのPAJにアファディンとそれに結合する接着分子のネクチンが集積していることに着目して、本シナプスの形成におけるアファディンの機能の解明を行なってきた。その結果、これまでにアファディンが、前シナプスのアクティブゾーンと後シナプスのシナプス後肥厚部(PSD)の形成を制御していることを明らかにした。その機構を解明する目的で、アファディン結合分子のプロテオーム解析を行い、アファディンのスプライスバリアントの一つのs-アファディンに結合するタンパク質としてマギンを見出し、2021年度にかけてその機能の解明を行った(論文リバイス中)。マギンはPSDに存在するタンパク質のPSD-95に結合し、X染色体連鎖性の知的障害や統合失調症と関係する。検討の結果、s-アファディンによるPSD-95の集積の機構にマギンが関与することを明らかにした。さらにマギンノックアウトマウスを作成し、マギンがアファディンと同様に、PSD-95の局在とシナプスでのAMPA型グルタミン酸受容体の表面表出、ならびに主にシナプス後性の機構でシナプス伝達を制御していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題ではアファディンに着目して、(1)新生神経細胞と放射状グリア細胞の突起間の細胞間接着の機能と機構の解明、(2)シナプスの接着装置の形成機構と機能の解明の研究を遂行する。 海馬と大脳新皮質の神経細胞とグリア細胞の前駆細胞においてアファディンが欠損する条件付遺伝子欠損マウスの解析では、放射状グリア細胞の突起が正常に形成されず、新生神経細胞と放射状グリア細胞の突起間の細胞間接着の解析は不可能であった。そこで、本研究では分裂後の新生興奮性神経細胞において遺伝子組換えが起こる条件付アファディン欠損マウスを作成し、予備実験を開始している。今後、上記(1)の課題の実験を推進する。 アファディンはαN-カテニンに結合するため、新生神経細胞と放射状グリア細胞の突起間の細胞間接着においてαN-カテニンも機能している可能性が高い。そこで、条件付αN-カテニン欠損マウスを用いて、この細胞間接着におけるαN-カテニンが果す役割を解明する。αN-カテニンのfloxマウスの作成は2021年度に完了しており、予備実験を開始している。今後、このfloxマウスを用いて、上記(1)と(2)の課題の実験を推進する。
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今後の研究の推進方策 |
分裂後の新生興奮性神経細胞において遺伝子組換えが起こる条件付アファディン欠損マウスを用い、新生神経細胞と放射状グリア細胞の突起間の細胞間接着の性状と大脳新皮質の層の形成を解析する。さらに、アファディンは統合失調症との関係も報告されているため、本条件付アファディン欠損マウスを用いて、マウスの行動に果すアファディンの役割を解明する。 作成したαN-カテニンのfloxマウスを使い、分裂後の新生興奮性神経細胞において遺伝子組換えが起こる条件付αN-カテニン欠損マウスを作成し、新生神経細胞と放射状グリア細胞の突起間の細胞間接着の性状と大脳新皮質の層の形成を解析する。さらに、苔状線維シナプスにおいて、PAJとシナプスの形成におけるαN-カテニンの果す役割についても解明する。さらに2021年度のマギンの機能解析の研究を発展させ、マウスの行動に果すマギンの役割を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金の額が少なく、必要な物品の支払額に満たなかったため次年度使用額が発生した。2022年度にマウスの飼育費として計上する。
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