研究課題/領域番号 |
21K06182
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
弥益 恭 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60230439)
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研究分担者 |
津田 佐知子 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (80736786)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 脳発生 / 中脳後脳境界 / 峡部 / gbxホメオボックス遺伝子 / 発生遺伝学 / 転写制御機構 / 変異体作製 / 発生運命追跡 |
研究実績の概要 |
脊椎動物の発生では、中脳や小脳の誘導とパターン形成において中脳後脳境界(MHB)がシグナル分泌センターとして働く。本研究では、MHB形成に関わるgbx遺伝子の機能と発現制御機構について、ゼブラフィッシュを用いて発生遺伝学研究を進めている。本年度は以下の成果を挙げた。 まず、MHBの位置決定とこの部位でのその後の峡部形成に関わるとされながら機能については議論のあるgbx1とgbx2について、転写適応による表現型の消失を避けるため、CRISPR/Cas9法により遺伝子全域の欠失を試みた。各々の欠失にはすでに成功しており、現在系統化を進めている。 本研究ではgbx発現細胞の追跡も予定しており、gbx2上流へのegfp遺伝子及びCre-ERT2遺伝子のノックインを相同組換え非依存的手法により実施した。今後、これらの系統魚を利用したgbx発現細胞の動態解析が可能となった。 一方、gbxの転写制御機構の検討も進めており、gbx1については、エンハンサーの同定をめざし、上流遺伝子(asb10)までの全領域(5.5 kb)及び下流遺伝子(agap3)までの全領域(22 kb)の欠失を、やはりCRISPR/Cas9法により行った。上流全欠失についてはすでに系統化に成功しており、ホモ欠失胚において、原腸形成終了期における後方神経板でのgbx1発現は正常であるが、体節形成終了期での後脳発現が消失することを見いだした。つまり、上流5.5 kb内に後脳エンハンサーがあると推定された。この転写調節能は、egfpレポーターとの胚への共導入実験でも確認された。下流欠失変異体の作製にも成功しており、現在系統化を進めている。gbx2については、以前に同定した3つのエンハンサー各々の欠失を実施したが、gbx2の発現異常は見られなかった。また、上流全域(130 kb)と下流全域(8 kb)の欠失変異体作製にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、まず遺伝子全欠失変異体を作製した上で表現型解析を行うこととしており、これまでにgbx1とgbx2各々の全遺伝子欠失に成功した。今後これらを系統化し、変異体の表現型を検討することで、転写適応の回避と各gbx遺伝子の機能に改めて取り組むことが可能となる。 また、相同組換え非依存的遺伝子ノックイン技術によりegfpレポーター遺伝子をgbx2の上流に組み込むことに成功した(Tg(gbx2:egfp))。さらに、Cre/loxP系によりgbx2発現細胞を条件選択的かつ不可逆的に蛍光標識し、その後の長期的追跡を試みることを計画しており(GIFM法)、すでにCreERT2遺伝子のgbx2上流へのノックインは実施した(Tg(gbx2:CreERT2))。今後、これらのノックイン魚を利用することで、gbx2細胞の発生における動態、発生運命の解明が可能になると期待される。 gbxの転写制御機構の解析については、本年度、gbx1の体節形成後期における後脳での発現を活性化する領域が上流5.5 kb領域内にあることを示した。gbx1の後脳での発現を制御するゲノム領域はこれまで他の動物種を含めて知られておらず、大きな成果と言える。今後、部分的欠失の導入やレポーター解析、結合転写因子の特定などにより、この上流領域によるgbx1の発生後期での後脳での転写制御機構の解析を進めることになる。gbx2について、異なる3つのMHBエンハンサーの単独欠失がgbx2の発現にほとんど影響しないという今回の結果は、gbx2の転写制御におけるrobustness保証機構の1つを示したと評価できる。これらのエンハンサーはいわゆるシャドウエンハンサーと考えられ、今後はシャドウエンハンサーの発生における役割をさらに検討することになる。
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今後の研究の推進方策 |
各gbx欠失変異体(gbx1、gbx2)の系統化をまず完成させる予定である。そうした上で、各々の欠失変異体での発生を、MHB、中脳、小脳の形成に焦点を当てて形態的、組織的、そして遺伝子レベルで検討する。必要に応じ、gbxコード領域の上流と下流各々にCRISPR/Cas9法によりloxP配列をノックインし、上述のCreERT2発現魚を利用してconditional KOを行うことで、特定時期でのgbxの機能検討を行う。 また、gbx2上流にegfp遺伝子をノックインしたTg(gbx2:egfp)系統魚(上述)を利用し、gbx2発現細胞の発生における動態を検討する。さらに、gbx2上流にCre-ERT2遺伝子をノックインしたTg(gbx2:CreERT2)系統魚(上述)とCre依存的蛍光レポーター魚と交配させ、tamoxifenで子孫胚を処理することでgbx細胞を不可逆的に蛍光標識する。これらにより、gbx細胞群の動態と発生運命の解明が可能になると期待される。 gbx1の転写制御については、まず上流5.5 kb領域にさらに部分的欠失を導入してgbx1の内在発現への影響を検討する。また、この領域内小領域の転写制御活性について、egfpレポーター遺伝子との胚への共導入、あるいは培養細胞系でのluciferaseレポーター導入により検討する。以上により、エンハンサー主要部を特定する。また、VISTA解析などで保存配列を検討し、各エンハンサーのコア配列の推定を行う。同定された配列内に結合する転写因子を予測した上、エンハンサーへの結合能や実際の転写制御能を検討する。下流欠失変異体の系統化も進め、下流領域の転写制御能を検討する。gbx2については、3つのMHBエンハンサーについての多重欠失変異体を作製してgbx2発現への影響を調べ、シャドウエンハンサーの役割を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該使用額が生じた理由は主として、令和3年度において参加した学会(小型魚類研究会、分子生物学会)がいずれも、コロナ禍の影響でオンライン参加になり、旅費が不要となったことである。生じた使用額は物品費に当てる予定である。
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