研究課題/領域番号 |
21K06185
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
千葉 和義 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (70222130)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アポトーシス / caspase-3/9 / ヒトデ / 卵 / 受精 / Apaf-1 |
研究実績の概要 |
ヒトデでは、ホルモン1-メチルアデニン(1-MA)刺激で減数分裂再開した卵を受精させないと、アポトーシスを開始して死ぬ。すなわちホルモンは卵のアポトーシスを駆動する。一方、1-MAのよく知られた役割は、卵母細胞の減数分裂を再開させ、受精可能にするはたらきだ。ではなぜ、わざわざ危険な死のプログラムを駆動しつつ、受精によってそれを解除しているのだろうか? 申請者は、ヒトデ未受精卵の自殺に関わる分子的な役者として、caspase-3/9とApaf-1を同定してきた。本研究では、1-MA刺激がどのように自殺プログラムを駆動するのかを明らかにして、受精の新たな意義である卵自殺プログラム遮断機構を解明する。 哺乳類においては、Apaf-1がcaspase-9のCARD(caspase recruitment domain)と結合し、活性化されたcaspase-9がpro-caspase-3を切断すると、活性型caspase-3が形成され、アポトーシスが実行される。ヒトデではApaf-1がcaspase-3/9のCARDと結合することは明らかになっているが、CARDだけ(酵素活性部位が欠損しているにもかかわらず)を卵にマイクロインジェクションしてもアポトーシスが起こる。哺乳類ではCARDだけではむしろアポトーシスは阻害される。この謎を明らかにするために、まずは卵内で、Apaf-1がcaspase-3/9によるアポトーシスに関与しているか否かを確かめた。そのために、抗Apaf-1抗体を卵内にマイクロインジェクションしてApaf-1の機能を阻害したところ、未受精卵アポトーシスを阻害できた。一方、抗体を注入した卵を受精させると、正常に発生したので、このアポトーシス阻害は特異的であった。よってApaf-1はcaspase-3/9によるヒトデ卵アポトーシスに関与していることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究によって、caspase-3/9が機能的にApaf-1と相互作用して、ヒトデ卵未受精卵のアポトーシスを開始していることが確認できた。この結果は、哺乳類におけるcaspase-9とApaf-1の相互作用が、ヒトデのcaspase-3/9とApaf-1の相互作用に、類似していることを強く示唆する。しかしリコンビナントCARDの効果は全く逆であるので、ヒトデcaspase-3/9とApaf-1からcaspase-3/9の活性化に至るまでの反応に、哺乳類とは決定的に異なる分子機構が介在していることが予想される。すなわち哺乳類caspase-8やcaspase-1で知られているCARDフィラメントがヒトデcaspase-3/9で形成されていることが示唆される。現在、大腸菌および小麦胚芽リコンビナント合成系を活用して作成したCARDをクライオ顕微鏡で観察しており、仮説の真偽を確かめている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの結果で、CARDフィラメント像が得られており、フィラメントの構造もほぼ明らかになりつつある。さらに、caspase-3/9自体がフィラメントを形成するか否か、またcaspase-3/9の活性化機構とフィラメントの関係について、明らかにすることを目指している。 哺乳類caspase-9はApaf-1とそれぞれのCARD-CARD結合によって、リクルートされると考えられていたが、アポトソーム上では7量体のcaspase-9には7分子のCARDが存在するのに、4分子程度しかcaspase-9が観測されないことが謎となっている。それに加えて、いったん形成された異種CARD-CARD結合がどのように乖離して、別のcaspase-9分子がリクルートされるのかについては諸説あり、確定していない。本研究では、アポトソーム上の異種CARD-CARD結合が同種CARD-CARD結合を促す重合核となり、異種CARD-CARD結合は乖離しないと考えている。すなわち、異種CARD-CARD結合は強固であるが、同種CARD-CARD結合構造は比較的弱く、不活性型caspase-3/9をフィラメント構造にリクルートするとcaspase-3/9は活性型となって解離しやすくなり、このサイクルで不活性型caspase-3/9は活性化され続ける、と考えている。これは、哺乳類caspase-9における未解決なcaspase-9活性機構の研究にインパクトを与えることが期待できる
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次年度使用額が生じた理由 |
クライオ顕微鏡が込み合っており、使用回数が限られてしまったために、サンプル調整のための消耗品等の購入が少なくなってしまったが、次年度にまわして使用する予定である。
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