研究課題/領域番号 |
21K06186
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
服部 佑佳子 京都大学, 生命科学研究科, 助教 (50646768)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 微生物叢(酵母・細菌) / 栄養 / ショウジョウバエ / 個体成長 / 宿主ー微生物相互作用 |
研究実績の概要 |
動物の共生微生物は宿主の成長に大きな影響を与える。自然界で、ショウジョウバエの幼虫は子嚢菌酵母や細菌により発酵した果物を食べる。これらの共生微生物は幼虫の成長に必須の役割を担うが、幼虫の成長過程における宿主と微生物の間、あるいは微生物種間の相互作用には不明な点が多い。我々は野外のショウジョウバエ幼虫が摂食していた餌(発酵したバナナ)の微生物叢を解析した。その結果、発酵に伴い真菌叢・細菌叢の組成が劇的に変化することを見出した。真菌叢では酵母が一貫して優占したものの、種の内訳は発酵段階により大きく異なった。細菌叢では発酵初期にはエンテロバクター目が、発酵後期には乳酸菌と酢酸菌が優占した。次に、餌から単離した酵母・細菌をバナナ寒天培地で培養して幼虫に与え、幼虫の成長促進を担う種を探した。その結果、発酵後期餌で優占する微生物は各種単独では幼虫の成長をほとんど促進しないが、酢酸菌を乳酸菌、あるいは酵母と共存させると幼虫の成長が促進されることがわかった。一方、発酵初期餌で優占する微生物の中では、酵母 Hanseniaspora uvarum の存在下で、他種の存在有無にかかわらず幼虫の成長が促進された。酵母種間で幼虫の成長促進可否が異なる原因を追究したところ、単独では幼虫の成長を促進しない発酵後期餌由来の酵母も、加熱殺菌して与えると幼虫の成長を促進した。この結果から、酵母による成長促進には、産生した栄養素を幼虫に利用可能な形で供給できることが重要な可能性が示唆された。さらに、メタボローム解析を行い、幼虫の成長に必要な酵母由来代謝産物の候補も同定した。以上のように、変化する野外の共生微生物叢がショウジョウバエ幼虫に栄養素を供給する過程を解析し、中心的な役割を担う種や微生物間相互作用、さらに、酵母による栄養素供給機構の一端を明らかにした(Mure et al., eLife, 2023)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画していた研究を進めた結果、論文発表するに至った(Mure et al., eLife, 2023)。本論文の研究成果について、eLife誌上で Insight 欄に紹介記事が掲載されたり(Ferreira and Antunes, eLife, 2023)、複数の招待講演を依頼されるなど、国内外からの反響も多く頂いている。現在、さらに、それらの結果をふまえて、多種類の酵母や細菌からなる微生物叢がショウジョウバエ幼虫に作用する分子機序の解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は、自然界でショウジョウバエ幼虫の成長に必須の役割を担う酵母種H. uvarumや微生物種間相互作用を明らかにした(Mure et al., eLife, 2023)。しかし、なぜ特定の酵母種のみが宿主成長を支えられるのか、共生微生物が宿主体内でどのように作用し成長を支えているかについては依然として未解明である。そこで、ショウジョウバエ個体内での微生物動態解析や酵母種間のゲノム比較解析などにより、個体成長や器官発達を支える宿主―微生物叢間相互作用の分子基盤解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:計画を順調に進めた結果、ショウジョウバエ幼虫の成長を支える共生微生物叢の実態について論文発表するに至った。現在、共生酵母をはじめとする微生物叢作用のより詳細な分子機構の解明のため、追加の実験を行っており、次年度使用額が生じた。
使用計画:ショウジョウバエ共生酵母や細菌について、幼虫体内での微生物動態を解析し、作用機構の糸口を見出す。
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